K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

大船から北鎌倉そして金澤:彼岸花にうつる光景うつらない光景


時間があれば犀川沿いを走る。引っ越してきてから随分いろいろな処を走ったけど、今は殆どが犀川沿い。大きな秋空のもと走っている。

梅雨の頃は金澤の紫陽花の彩りが冴えないような感覚をもった。街のなかで、紫陽花のある光景が思い浮かばない。そんな話を呑みながらしていた。

大桑近くから犀川を下りはじめて気分が乗って、若宮大橋を越えて走った。路傍に僅かな彼岸花。この地では彼岸花をあまり見かけないような気がしてきた。

彼岸花でいつも思い浮かべる光景は横須賀線の鉄路沿い。

横浜方面から東海道線と併走する横須賀線は大船で大きく南に折れて鎌倉から逗子へと向かう。大船の下町をくぐり抜けて、小袋谷の踏切のあたりから急に緑迫る谷戸の縁をなぞるような沿線光景となる。そして円覚寺前の北鎌倉に滑り込む。
ボクは随分ながい間、大船に住んでいたのだけど、この北鎌倉の西に広がる山崎の丘陵地帯を、いい加減な感じで曙となく宵となく歩き回ることが好きだった。都市計画の前からある無軌道な道路(金澤も同じ!)、谷戸へ折れ込む細い径、唐突な階段、薄暗い夕方に歩くときの寂寥感も楽しい。

そんな散歩地帯の縁が横須賀線で、成福寺から明月谷入口にかけての小径が寂しい散歩路。秋になると、赤茶けた鉄路の脇に彼岸花が群れ咲いている。赫い花が揺れるなかを轟音をたてて列車が駆け抜けていく。なにか不吉なものをみたような感覚、あの赫い花が何か轢死を招いているように見えてしまうのだ。血のような赫。

いつだったか久方振りに会った友人と大船で呑んでいた。酔いも随分まわった夜半まえ、やはり散歩好きの友と北鎌倉の方角に歩いた。大船方面から人が通れる程度の隧道をくぐるとポンと横須賀線沿いの小径に出た。友人は唐突に、このあたりに何故か引き込まれるような場所あるらしい..と声をおとして云った。ただそれだけのことだったのだけど、ボクのなかでは赫い彼岸花が揺れる光景と重なっていた。

金澤でみた彼岸花には、そんなことを想い起こさせるものは何もない。ただ一つの花としてソコにあったのだけど、だから紫陽花同様なにか物足りないない気持ちになってしまった。