K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Shure V-15 type III:半径15cmの世界に縛られている、ようだ


 半径15cmの世界に縛られている、ようだ。蒙昧な中世欧州の世界観のような形、円盤のうえにボクはいる。そしてボクの目の前で、毎分33と1/3の回転数で回り続ける。数10μmのダイアモンドの針先が伝える振動は磁気の変動を喚起し、僅かな電流となって音響装置を叩き上げる。

 ただそれだけの単純な機械振動を電気に変換する仕組みなのだけど、ボクを魅了して離さない。Hi-Fiかって聞かれたら、明らかに違う。Low-Fiであることは明らか。音の再現性やダイナミックレンジは劣る。

 だけどボク達が魅了されるのは、音の解像度や再現性だろうか。ヒトが感じうる感性を最低限刺激し得る情報の量は多くない。むしろ細密画を見るよりはデフォルメされた線に覆われた何か、が喚起するイマジネエションの方が官能的であり、時としてエロティックであることと、同じような気持ちでいる。

 30年以上昔、自宅でShureのMMカートリッジ V-15 type IIIを使っていた記憶があった。先日、父の遺品を整理していたら引き出しの奥から出てきた。交換針のストックとともに。それから、このカートリッジで1970年代のオトを聴き続けている。その当時の旧い装置を使いながら。

 その頃の制作者が想定したに違いないオト再生空間のなかで、ボクたちが勝手に脳内に作り上げていているオトの在り方に対し、とても忠実に刺激してくる。キモチよい。決して、原音に忠実とかそんなモノではない。ただ官能に忠実なだけだ。

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LPプレーヤー       : Kenwood KP-9010
カートリッジ       : Shure V-15 type III(MM)
プリアンプ         : McIntosh C22
メインアンプ       : McIntosh MC30
スピーカ           : JBL 240TI