気がついたら背中から乗り上げるように春が駆け足でやってきた。とても暴力的な勢い。だから冬の記憶を少しだけ留めておきたい。
雪の夜は明るい、ということは知っている。知っている、というより、知っていた、のほうが正しい。福井に住んでいた40年前、母親と歩いた雪の夜が記憶の底に沈んでいた。とても寂しい気持ちだったのだけど、周りがふっと消えそうな淡い光に包まれていた。振り返ると、点々と伸びる足跡。あのとき、何故寂しい気持ちだったのか、思い出せないが。
雪の夜にレコードを聴いていると、自分の周りよりも、硝子窓の外のほうが明るいことに気がついた。ただそれだけのこと、なのだけど、自分は時間を遡行しながら、なんだか苦い記憶まで辿りついてしまった。
そんな雪の夜、は僅か1週間前だったのだけどね。