山狂い、のような日々。お陰様でLPレコード狂いは一段落。
10日ほど前に北アルプスの入門コースである合戦尾根に出かけた。東京のSさんパーティと一緒。独りの時は黙々と距離を稼ぐのだけど、他愛もないことを喋りながら登る山も、そんな機会はあまりないので、気持が切り替わって面白い。
訪れた稜線上の燕山荘には、畦地梅太郎や熊谷榧の版画が沢山展示されていて楽しかった。珈琲を飲みながら、随分と眺めていた。
山登りが出来なかった十数年の間、山の本ばかり買っていた時期があるのだけど、山の画文集は好きなジャンル。加藤泰三、上田哲農、坂本直行など美しい画文集を上梓している。畦地梅太郎や熊谷榧も、そんな作家で、疲れた時にぼんやりページをめくっていても飽きない。
かつてあった山の文芸誌「アルプ」はそんな作家の文章が集められた雑誌で、かつて日本にあった山登りの情緒のようなものを今に伝える。大正期の詩人・尾崎喜八、アナキスト・伊藤野枝の息子・辻まことなど多彩な作家の文章を読むことができる。先年に亡くなった串田孫一が編集。終刊となって30年が経つ。数多の峠に自動車道が通じ、そこを流れる風に遙か昔からの旅人に思いをはせるような旅情が失なわれてしまったとき、「山の文芸」というジャンルも終息したのだろう、と思う。
さて金沢の古書店に沢山の画文集が入ったという。山の本狂い、になることが恐ろしくも楽しみなこの頃なのだ。