K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

金沢・辰巳 cowry coffee:ECMのアルバムが似合う空気感

 アイヒャーのECMが好きだ、って人は、演奏そのものだけでなく、欧州北部の空気感(乾いていて、冷たい)が好きなのだと思う。だから、その空気は典型的なジャズ、Blue Noteあたりのハード・バップと全く異なる。当初はその異質感が「新しさ」そのものだったように思うが、ジャズを聴きはじめて30年以上過ごす中で、いつのまにか「ジャズのある種の形」として自然に、ボクの気分のなかに溶け込んでいったように思う。「ある種の形」って、ジャズという表現形態を換骨奪胎し、現代音楽に極めて近い室内楽的な在り方。

 その好き嫌いはともかく、そのファンは相当数いると思うのだけど、face to faceで話をするジャズ・ファンのなかで、ECM好きってあまり会ったことはない。不思議だなあ。

 だから驚いたのは、ボクの家から犀奥に向かう地方道を7kmほど山のほうへ行き、そこから隠れ里のような住宅街、林の向こう、にあるコーヒー店cowry coffeeに出かけた夜に、とても若い店主とそんなECMについての話が弾んで、何だか不思議な気分だった。確かに、少し道路から外れただけなのだけど、どこか遠くへ来たような気にさせる。とにかく静謐という言葉そのもの、の環境のなかにあって、大気の僅かな流れ、遠くで弾けている水なんかが聞こえるような場所。ECMのアルバムが似合う空気感、を確かに感じる。

 そこで呑んだ珈琲は、濃く・苦く・そして淡い。すっと舌の奥で消えてしまうような味わい。ボクは珈琲に煩くなくて、無頓着なのだけど驚いてしまった。不思議な珈琲を呑みながら、ECMのうたい文句「The Most Beautiful Sound Next To Silence」、とても好きだ、を思い浮かべながら話をする。そんな時間が可笑しかった。

 ECMのレコードも少なからずあって、それをタンノイの古い・大きなスピーカで聴く。木造の大きな部屋というアコウスティックな環境で響く音は格別だと思う。確かに、静謐な林の向こうにある部屋でThe Most Beautiful Sound Next To Silenceを聴いたような、気がするのだ。店主のKさん、ありがとう。そして付き合ってくれた、Iちゃん、SAさん、SNちゃんも。とても楽しい時間で、煩わしいことを暫し忘れることができたよ。