ボクはECMの頂点にたどり着いたような感覚のなかにある。ECM1060あたりから後のアルバムには、迷いなく惹き寄せられる力が漲っている。素晴らしい。たぶん、また上がったり、下がったりしながら、進んでいくのだろうが、大きな稜線に飛び出したような感覚のなか。
エンリコの初ECM。だけどメンバーはその前後のアルバムで重なるクロンビーやクリステンセンが。クロンビーの造る空気、クリステンセンの造る躍動がこの時期のECMに通底している。
[2012-03-21記事] 1970年代のECMの色っていいなあ (少し改稿)
名古屋から岡山に移動した。桃太郎通りという明るい大通りを歩いて、お城の石垣に面したホテルで一服。なんか吞み過ぎの日々。やれやれ。
以前も書いたのだけど、1970年代のECMの色っていいなあ、って思う。3つの要素がある。1つは70年代のジャズ、1つは勿論ECMであるということ、そしてもう1つが非米国(アウトサイドとも云って良いと思う)のジャズ。これらの3つのヴェクターが巧く揃ったときのオトの楽しさは言葉で尽くせない。エンリコの古いアルバムだけど、そんなジャズを聴く愉しみが満ちあふれている。
最初の曲からして、フェンダー・ローズのようなエフェクターが効いたクロンビーの音が澱のように流れはじめる。もうその空気が70年代。ぐっと来る。そして、当時のECMは音の温度よりも、むしろ透明度が特長であったように思える。今のECMよりも温度はやや高めのように感じる。その違和感が楽しい。これが2つめのヴェクターの楽しみ。
1970年代、フリージャズやファンク・フュージョンの影響のもと、ジャズが一つの音楽スタイルからもっと大きな音楽プラットフォームに変貌したと思う。プラットフォームに乗せ込む奏者の個性がより強い形で現れていると思う。何をやっても、ジャズをやっている気持ちがあれば、ジャズにきこえる、ような。だから1960年代末期から、日本や欧州のジャズが米国の影響を受けつつも、日本のジャズあるいは欧州のジャズとしか表現できないような独特の味わいを深めている。その欧州のジャズの大きな舞台がMPSでありEnjaであり、そしてECM/Japoであった訳だ。このエンリコの音も米国のジャズとは全く別個のオトであり、そしてジャズであることを強く主張している。ボクが不思議に思ったのは、当時の日野皓正のバンドとの類似性。1970年代はじめに日野は渡欧しているのだけど、ギタートリオを従えている(もう一管はいっているけど)。ギターは杉本喜代志。トランペットとギターが織りなす音の味わいが実に似たような空気感を漂わせている。エンリコの録音はECMというフィルターが入っているので、綺麗に濾過されているのだけど。面白いな。これが3つめのヴェクター。
それにしてもタイトルとジャケットもいいなあ。発売当時の邦題は「魚座の難破船」。なんでだろう?
関連記事:
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[ECM1063] Enrico Rava:– The Pilgrim And The Stars
A1. The Pilgrim And The Stars (Enrico Rava) 9:42
A2. Parks (Enrico Rava) 1:45
A3. Bella (Enrico Rava) 9:18
B1. Pesce Naufrago (Enrico Rava) 5:11
B2. Surprise Hotel (Enrico Rava) 1:52
B3. By The Sea (Graciela Rava) 4:45
B4. Blancasnow (Enrico Rava) 6:45
Enrico Rava(tp), John Abercrombie(g), Palle Danielsson(b), Jon Christensen(ds)
Layout: B
Design [Cover], Photograph: Giuseppe Pino
Engineer: Martin Wieland
Producer: Manfred Eicher
Recorded June 1975 at Tonstudio Bauer, Ludwigsburg
Released: 1975