K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Barbara Casini, Enrico Rava: Vento (1999) マイルスの甘さのようなものが純化

Barbara Casini, Enrico Rava: Vento (1999, Label Bleu)
1. Aspettando Un Sogno 0:46
2. L'Angelo 3:46
3. Cidade Do Amor Demais 4:46
4. La Maschera 7:05
5. Vento 4:27
6. Bolero De Parecer 4:52
7. Ballo 1:29
8. Malinconica Abitudine 5:06
9. Un'Alba Limpida 5:58
10. Une Petite Folie 4:54
11. Fin De L'Ennui 4:44
12. Early Autumn 1:21
Enrico Rava(tp), Barbara Casini(vo, g), Stefano Bollani(p), Giovanni Tommaso, Nicola Jannalfo(b), Roberto Gatto(ds)
Arranged By, Directed By [Orchestra]: Paolo SIlvestri
Franco Fiolini(b-cl), Moreno Foschi(bassoon), Tatiana Patella, Valentina Turati(cello), Mauro Negri(cl),Claudio Allifranchini(fl), Giovanni Pompeo(fr-horn),Domenico Laracchia(oboe), Bruno Pucci, Florinda Ravagnani(violla), Angela Koukou, Arturo Del Vecchio, Cinzia Pagliani, Filippo Gianinetti, Ivana Sparacio, Luciano Saladino, Luisiana Lorusso, Maurizio Azzarello(vln)
Recorded at Isole Studio, Milan, Italy, 1999-06 and 1999-07
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好きなアルバムをピックアップしていたら、40年前に聴いたアルバムばかりで苦笑。三つ子の魂もなんやらで、この10年沢山聴いたのは何だったのだろうか。勿論、10代のお仕舞いから20代、月数枚のレコードを一所懸命聴いたのだから刷り込みが違うよね。

少し落ち着いて思い出すと、この10年もポロポロ出てくる。このCDは10年前によく聴いたなあ。冒頭のふわっとした感じが美味しい。あとマイルス似の音響、ミュートの有無ともに、を追求するラヴァも実に上手い。スケッチ・オブ・スペインあたりのマイルスの甘さ、のようなものが純化されている。だけど過度の甘さにもなっていなくて、絶妙。

だから、ジャズ聴きにキックを入れた10年前(20年ぶりだよ)に、生きの良い米国ジャズが見つからない感覚があって驚いた。欧州中心のガイドブックもあったりして、何だかなあ、の感じだった。ニューヨークやシカゴの胎動には気がつかなかったのだ。そんなことを思い出しながら聴いている。

それにしてもコロナ禍で高齢者が多い欧州奏者が無事だったらいいなあ、心配。


[2010-10-05] いきなり胸ぐらを掴まれ天まで飛ばされた感覚
なんで音楽を聴いているのだろうか。ボクは動機不詳で聴いている。なんで聴いているのだろうか。ふと考えることもある。なんで?

そんなことを考えていると、多くのLPレコードとともに、1980年前後の京都での心象風景がLPレコードのジャケットとともに残っていることに気がついた。LPレコードに繋がらない記憶の大半は擦り切れているのに。音のように記憶の脇役のようなものが、中心に座っているようなのだ。だから、音楽を聴くということと、去りし記憶の印、柱の傷のようなものが混然と記憶の底流に流れている。

そんな刻印が記憶に残りそうな一枚に久々に出会った。

9月の御茶ノ水での猟盤の主役はクラシック、それも20世紀の音楽なのだけど、ジャズではイタリアのEnrico RavaとStefano Bollaniをマークしていた。そして中古CDを3枚ばかり入手することができた。そのなかの一枚は、レーベル買い対象のLabel Bleu。センスのよいキツイ感じのジャズが多い。それがこのVento。「風」という意味だそうだ。ジャケットもなんかいい感じ。

淡い期待のもとCDをかけると、弦楽ではじまった。弦の入ったジャズは好きじゃないので一瞬がっかりした。ほんとうに一瞬で、小気味よいハープのリードとともにBarbara Casini の唄がはじまった瞬間に、いきなり胸ぐらを掴まれ天まで飛ばされた感覚。声はJoyceの若い頃のような好みの質で、純度を少し増して暖かみをつけた感じ。とても優しくボクに唄ってくれる。ゆったりと。季節のはじめに懐かしい記憶を運んでくるような風。ジャズといっても、Cole Porterの曲のような空気。それが甘めのヨーロッパの味付けがなされている。作曲はCasini, Rava, Bollaniで、編曲がPaolo Silvestriという人。編曲がいいのだろうな。歌詞の大半がCasini。驚いたことに7曲めの BALLOは、ボクが好きな人類学者亡き Fosco Marainiが作詞。戦前にチベットやシッキムを探検した知日派のフィレンツェの人。そのうち歌詞を読んでみたくなった。

殆どCasiniの声に引っ張られてゆったりとした曲を楽しんでいる。ボクはドライヴ感の強い曲が好みだったのだけど、こんなにゆったりとした曲を心底楽しめていることは初めてじゃないかな。少し自分の好みが変わってきているように感じた。RavaのトランペットもBollaniのピアノも唄伴に徹していて、弦楽と一緒に空気のなかに溶けている。それがとても美味しい。

これが暫く休止に入っていたボクのジャズモードを強烈にキックした。休止期間にクラシックをかなり集中的に聴いたので、感覚が少し変わったような気がする。Bill FriesellのSongs for youを10年振りに聴いて、Fred Herschのピアノに唐突に魅了されたり。

Vento

Vento