K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Dave Holland: Life Cycle (1982) 退屈しきった20世紀末へのオマージュ

 1960年代にデビューし、1970年前後に一気にジャズの中心に躍り出た多くの奏者がいる。そのなかで未だに気になるのは欧州出身のベース奏者達。ヴィトウスとかホランド。最近になってアルバムを少しだけ集めている。下手をするとムード音楽になってしまう欧州的な味に頼らず、むしろ伝統的なジャズのグルーヴ感から肉体性を削ぎ落としたような、感覚が面白い。ヴィトウスは天空を震わせ、ホランドは大地に根ざすような感じかな。

 寡作のヴィトウスと比べ、ホランドは随分とアルバムがあって、全く網羅していないのだけど、これはチェロのソロという異色作。ベース奏者が弾くチェロというと、かつての鈴木勲を思い出す。鈴木勲のチェロは唄いたかったベース奏者のツ−ル、って感じで、鼻歌のような演奏。このホランドのチェロは全く違う。現代曲のような自曲をソロで弾ききっている。ジャズ的な音世界では全くなく、驚いてしまった。

 実は内容を全く確認せずに買ってきたレコードで、チェロ・ソロと知ったときはFree improvisationか、と身構えたのだけど、そうではなかった。良く作曲された組曲(のようなアルバム)。造詣がないので、どんなスタイルの現代曲、とは云えないのだけど、かなり気持ちの良い演奏になっている。20世紀の音を圧縮したような趣があって、聴いていると「過ぎてしまった20世紀」をコマ落としのように感じる。あの頃、戦争が終わってから30年以上過ぎ、退屈しきった20世紀末へのオマージュのようにも聴こえる。

 このアルバムから、さらに30年以上過ぎ、20世紀は彼方へ消え去った。そして、安寧で退屈な20世紀後半から、再び先が見通せない不安感のなかにある。あの頃、戦争と混乱の時代を過去のこととして捉えていたのだけど、輪廻のように再び巡りくるような時代感覚のなかにあるように感じるのは気のせいだろうか。

 

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Dave Holland: Life Cycle (1982, ECM)
   A1. Inception
   A2. Discovery
   A3. Longing
   A4. Search
   A5. Resolution
   B1. Sonnet
   B2. Rune
   B3. Troubadour Tale
   B4. Grapevine
   B5. Morning Song
   B6. Chanson Pour La Nuit
Dave Holland (cello)