K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

林栄一: Monk's Mood (1995) 管の共鳴まで

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 ゆっくりと渋谷毅のアルバムを集めている。ゆっくり入手し、ゆっくり聴く、そんな感じが彼のアルバムには向いているような気がする。だから、そんなに沢山は持っていない。

  そんな感じで入手した、渋谷毅が入った林栄一のアルバム。渋谷毅は冒頭4曲のみ。

 そんなに大きく期待もせずに(テキトーに)購入したが、これは素晴らしいアルバム、勿論、林栄一のアルバムとして。

 

 聴きはじめてすぐに気がついたのは、録音が非常に良いこと。奏者達の音がスピーカーからせり出すような感じで、音圧はアナログ末期のレコードに近い。音質そのものはレコードよりCDのほうが良いのだから、素晴らしい音圧+音質で、とても高い録音品位に驚いた。曲によっては、管の共鳴まで克明に記録されていて、楽器の鳴りで聴かせる感覚って、ジャズの録音としては希有じゃないかな。

 渋谷毅が入った1〜4から、トリオの曲に遷移すると、録音のセッティングが変わったことが空気で分かる。楽器が音を出す前に緊張感が瞬時に伝わる。これも凄い。

 録音技師は及川公生、ボクがいつも新譜購入の参考にするディスクレビュー(音の観点)をやってられる:

http://jazztokyo.org/category/reviews/kimio-oikawa-reviews/

 CDの記録を見ていると、マスターテープはアナログで、2トラックのアナログテープへの直接録音。これはアナログ末期に流行った手法(だと思う)。マイクからプレス用マスターまで最短で結ぶ(イコライザが少ない)ダイレクトカッティグが究極の手法とはいえ、一発取りの宿命か、テイクの取捨選択が出来ないために案外名盤が少ない。次善の手法としてのダイレクト2chマスター録音じゃなかったかなあ(記憶が怪しい)。

 だから1970年代から1980年代の優れたレコードの録音を聴くようなのだ。このアルバムの再発盤はSACDと普通のCDのハイブリッドのようだけど、これは最初に発売されたCDのようだ。

 録音の話に終始したが、演奏内容も間違いなく素晴らしい。内容に非常に幅がある演奏。

 最初の4曲は渋谷毅のピアノがオブラートのように優しく包み込んだ、穏やかでゆっくりした曲が続く。この弛緩した愉しみが渋谷毅の音世界の魅力で、林栄一の管も円やかに溶け込んでいる。

 その後、パーカーのドナ・リー。空気が一変する。全般的には鋭い演奏が続く。曲によってはEvan Parkerのような、ノン・ブレス(なのかな?)のソロまで行き着き、そして再びMonk's Moodのソロでゆったり終わる。

 録音の妙技で、眼前で彼が吹いているような、擬似的なライヴ感があり、彼の管の響きをたっぷり味わえる。そう、このアルバムの魅力は管の響き、共鳴音であり、どのようなスタイルをとっても、その軸は振れない。だから聴き手は「林栄一」の管の音を聴いている意識はしっかり維持されているのだ。大した個性だなあ、と感嘆した。

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林栄一: Monk's Mood (1995)
1. Monk's Mood
2. Misterioso
3. Pannonica
4. Body And Soul
5. Donna Lee
6. Four In One
7. Inside of The Earth
8. Cross Ball
9. White Noise
10. Improvisation #2
11. Monk's Mood
林栄一(as), 伊藤啓太(b), 角田健(ds)
渋谷毅(p on 1-4)
producer: 望月由美
engineer: 及川公生