静寂のなかにある。そしてゆっくりと揺らぐ音の様相は、思いの外複雑で、音全体の骨格のようなものを見せない。といって、遠心力を孕んだ音ではなく、音の粒ひとつひとつがブラウン運動のような不規則と思わせるような動きをみせながら、漂う音の翳のようなものを照射する。
何回も何回も聴いてみたが、捉えようのない、しかしそれが即興に頼ったものでなく、作者の大いなる意図のもとに作曲されていることは、容易に感じることができる。
間違いなく、現代音楽(作者はフェルドマン、クセナキス、ドビュッシーを意識しているという)とジャズを巧みに交叉させていて、それはジャズとも現代音楽とも云えない不思議な味を与えている。前作が現代音楽的な作曲に重きを置いたように思えたが、本作はそれをジャズに戻した、というよりは高度に止揚したようにも思える。
ジャズの側からみると、ピーコック、モチアン、菊地雅章らが生涯をかけてつくっていった音の更に先、を拓こうと、試行錯誤しているように思える。全面的に拓かれた訳では無いが、一歩一歩進んでいるいることが感じられる作品ではないかと思う。
確かにECMの先に広がる風景を見ているようだ。
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Tyshawn Sorey: Verisimilitude (2017, PI recordings)
1. Cascade in Slow Motion 04:26
2. Flowers for Prashant 10:43
3. Obsidian 18:04
4. Algid November 30:49
5. Contemplating Tranquility 14:54
Tyshawn Sorey (ds, perc), Cory Smythe(p, toy piano, electronics), Chris Tordini(b)