K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

辛島文雄: My Life in Jazz(2016) 「日本のジャズ」の匂い、のようなものを全く感じさせない

辛島文雄: My Life in Jazz(2016, Pit inn music)
1. Detour Ahead
2. Old Devil Moon
3. So In Love
4. Elsa
5. Blue Monk
6. You Don't Know What Love Is
7. Darn That Dream
8. I Should Care
9. Nardis
辛島文雄(p), 井上陽介(b), 高橋信之介(ds)
Recorded at  Studio TLive on March 11 2016.

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いつだったか、もっきりやで辛島文雄闘病支援CDR(ジャズに生きる)を入手したことがあって、それから暫し後に、彼がこの世を去ったことを知った。

このアルバムは遺作だそうで、その経緯はDUのサイトから引用:

2015年夏に膵臓ガンが見つかり、その闘病の合間を縫うようにして翌年2月から3月にかけて『マイ・フェイヴァリット・シングス』が録音された。収録は快調で、すべての曲がワンテイクで進行した。ここで辛島はひらめいた。「よしもう1枚作ろう。陽ちゃん(井上陽介)と信之介で久し振りに純アコースティックのピアノ・トリオを」打ち合わせはない。曲も決めていない。その瞬間の思いつきでぱっと始まる。すべて一発録り。プレイバックして確認もしない。その2時間半は濃密に流れていき、十数曲を録り終えた。その演奏が本作『マイ・ライフ・イン・ジャズ ファイナル・レコーディングス』である。「今度みたいにいい加減なレコーディングはなかった」と辛島は自嘲気味に語るが「これがジャズだよ。杓子定規ではなくその瞬間を表現する音楽だからね」と集中して燃えた手応えを口にした。薬の副作用で手が痺れることがあって、内心忸怩たる思いがないこともないそうだが「昔の自分だったら演奏の細かいことが気になって仕方なかったけど、多少のミスがあろうともこれでいいという心境になった。それに自分のコンディションを考えたらまだまだ捨てたもんじゃないよ」とその出来映えには満更でもない様子だった。確かにとても余命数か月と宣告され「このまま逝っちゃうのかと思ったほど辛かった」抗がん治療を通り抜けてきたとは思えないほど演奏には気力がみなぎっている。「ピアノの前に座ると身体のだるさが吹っ飛ぶんだよね。そういうオカルトは信じていないけど。あれは不思議だったね」「自分が死んだら、トリオのセッションは追悼盤として出してもらうから」その録音から約1年後、2017年2月24日に惜しくも辛島文雄は68歳で他界した。
(以上、田中伊佐資ライナーノートから抜粋)

この演奏は晩年のビル・エヴァンスを彷彿とさせるようであり、ビル・エヴァンスから始まったジャズ人生は、ビル・エヴァンスに帰したのかも知れない。

そのようなコンテクスト抜きで聴いていると、実に不思議なアルバム。彼らの世代のジャス奏者が纏っている「日本のジャズ」の匂い、のようなものを全く感じさせない。個々の曲の美しさ、のようなものにピタっと焦点があたっていて、奏者の個あるいは感情の高ぶり、のようなものが全く押し出されていない、ようにも聴こえる。とても自然な音の流れに包まれている。偉大なジャズの名曲へのリスペクトに溢れた作品。

マイ・ライフ・イン・ジャズ

マイ・ライフ・イン・ジャズ

  • アーティスト:辛島文雄
  • ピットイン・レーベル
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