K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

石川・富山県境 大門山(1571.59m) 雨のなかブナに抱かれた香しい時間

ボクの自宅からみえているであろう大門山に行きたかった.昨秋,冠雪した国境稜線をはじめて見たときから,あの稜線に立ちたいと願っていたのだ.だから,昨夜は近所の酒場での呑みも早々に引き上げ(女性客がいないと早いね,と云われたが違うのです),半ば胸高鳴らせながら日付が変わる前に布団に入った.気持ちは遠足前の子供となにも変わらないのだ.

今朝,富山五箇山から10kmほど山中にはいったブナオ峠に着いたときは風もなく,小降りの雨だった.雨支度をして,尾根筋を登りはじめた.目の前の急斜面にブナの木々が広がっていた.ブナの森のなかでは,雨は落ちてこない.豊かに繁るブナの葉が傘となり,とても快適な登りはじめだった.

いつのまにか,とても賑やかしい空気のなかにいることを,はっきりと感じた.ブナの木が揺れている,揺れている.ボクが近づくと水滴を降らせてくる.次の木も,その次の木も.風吹かぬ尾根を覆う森はごおごお鳴っている.ただただ登り続けるボクのまわりに暖かいナニか,が,ゆっくりと流れていく.時折,柏の葉の匂いを淡くしたような香が流れていく.そんな記憶だけが残っている.ブナの森は稜線直下まで.気がつくと寂しげな稜線にポンと飛び出した.

あとは鬱陶しい藪漕ぎに近い登りを経て山頂に.冷たい弱い風,冷たい弱い雨にあたりながら,遠くの霞む山々をみていた.ここに来たかったのだ.随分長い間,窓から遠望していたのだ.

帰りの稜線直下,ブナの森に再びはいったとき,相変わらずの賑やかしい空気のなかにポンと入った.とても暖かい人肌のような感触が流れていく.くだりの歩みはとても軽く,暖かい気配のなかを泳ぐような感じで進んでいく.気持ちが良い.時折,ブナの木が鳴り,雨滴を落とす.目の前で木々が揺れている...

そんな甘い記憶を何回も何回も繰り返すなかで,ポンとブナオ峠に下りた.これだけの話なのだけど,今に至るもぼおっと想い出しても,ソレが何だったのか分からない.ただただ,ゆっくりと記憶の奥底に浸透していくのだろう,カレらと過ごした時間が.

今日は,カメラを家に忘れた効用で,とてもゆっくりとブナと相対することができたように思うのだ.