K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

金澤に住みはじめて三巡めの秋がやってきて

 夏の盛りの時期、ボクは印度支那半島やイスタンブールを巡っていた。それは,それで楽しかったのだけど、仕事もあって、イスタンブールでの体調は決して良くなかった。過労に近い状態で金澤に帰ってきた。だから体の奥底にある何かが損なわれた感覚があった。何だろう。休んでも、休んでも、何かに何かを持っていかれるような感覚。

 音楽を聴いても何だか楽しくないし、酒にも酔えない。そして気がつくと、金澤の夏は終わっていて、戸外には蝉ではなくて,虫の音で満ちていた。なんとなく鬱々とした日々を過ごしていた。もっとも仕事のほうも案外忙しくて、久々に長い文章を書いているので、知らない間に神経がささくれていたかもしれないのだけど。

 今日で8月はお仕舞いなのだけど、金澤に住んで三巡めの秋がやってきたことに気がついた。一巡目はとても時間がゆっくりに感じて、なくしてしまった時間を取り返したような気持ちでとても嬉しかったように思った。二巡目は時間の流れが次第に速くなっていることを感じて、寂しい感じがする。そして3回目の秋がはじまる。

 そんなことを考えて過ごしていた8月31日は、颱風の影響か夕刻から時雨れたような天気になってきた。殻を被ったような感覚がとても嫌だったので、雨の合間を縫って犀川河畔を走った。日々,日暮れが早まっていて、真っ暗。ときどき無灯火の自転車やランナーの影が風とともに去っていく。すべてが見えるべきものか、そうでないのか確かなことも分からない。そんな暗闇のなか。加齢とともに、目が見えなくなっている、こともあるのだけど。

 足元が暗くてスピードが上がらない。だから、息が切れない速度を狙った。犀川河畔の大桑橋・若宮大橋間を70分/13km。だんだんと走りが速まり、ボクを覆っていたナニかが壊れていく感触が気持ち良い。そんなこともあるんだ。ナニも考えないで走っていると、遠くに見えていた筈の橋がするすると近づいてくる。肉体の感覚が薄れて、ナニかがボクを載せて滑っているような不思議な感覚。そんな感覚で下菊橋のたもと、長良坂に滑り込んだ。お香の匂い漂う長良坂のお地蔵様に手を合わせたら、雨が再び降り始めた。濡れるの楽し。

 そんな秋のはじまりの宵だった。

*暫く音楽にも気持ちがいかなかったので、記事もお休み状態でしたが、少しずつ復活します。