K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Yvonne Loriod: Messiaen/Quatuor pour la Fin du Temps(1990) 造ること壊すこと


 現代音楽を聴くのは、ときとして調性からはずれたオトが抽象的あるいは形而上的とも云える美しさを湛えることがあるから。調性音楽がもつ感情への通路が塞がれているから、そのオトの美しさが天蓋を突き抜け、この世のものとは思えないような空間を作り出すことがある。武満徹メシアンの曲に惹かれるのは、そんな感覚。

 とりわけメシアンの曲は宗教的な表題が多く、そのオトが造り出す世界は思念のなかで、かなり高い位置に浮かび上がっているような感覚を与える。静かな朝、それも陽が出る前の微かな色彩の階梯を眺めながら聴いてみたいと思わせる荘厳さ、がいい。

 このメシアン「世の終わりのための四重奏曲」はよく参考にさせて頂くブログで知って、好みの中心に当たった。第二次世界大戦の最中、ドイツ軍の俘虜収容所のなかで作曲・初演が行われたという。そんな時代の冷たさが透け通るような音楽。特に第5楽章はチェロとピアノの二重奏で淡々と、それでいて畳み込むように重なる旋律が与える緊張が凛として美しい。ここに掲載したアルバムは、メシアン夫人のイヴォンヌ・ロリオがピアノを弾いたもの。強すぎず、冷たすぎないピアノが好みにうまく合う。

 現代音楽というと、ときとして破壊し尽くされたオトの残骸を聴かされることがある。Free Jazzもそう。だけど破壊が目的化することのつまらなさ、は何だって同じだと思う。現代音楽もFree Jazzも破壊が最終到達点ではなくて、固定観念からの解放による新たなオト造りであろう。一時、随分手にしたFree Jazzもほんの少ししか聴かなくなったのは、そんな理由ではないかな、と思う。現代音楽もそのような限界線の上を越したり留まったりしているのだけど、最近のボクの理解はそんな風になっている。


--------------------------------------------------------------------------
Yvonne Loriod: Messiaen/Quatuor pour la Fin du Temps(1990,EMI)
   1. 世の終わりのための四重奏曲:Quatuor pour la Fin du Temps
     i) 水晶の典礼
        Liturgie de cristal
    ii) 世の終わりを告げる天使のためのヴォカリーズ
        Vocalise, pour l'Ange qui annonce la fin du Temps
   iii) 鳥たちの深淵
        Abîme des oiseaux
    iv) 間奏曲
        Intermède
     v) イエスの永遠性への賛歌
        Louange à l'Éternité de Jésus
    iv) 7つのトランペットのための狂乱の踊り
        Danse de la fureur, pour les sept trompettes
   iiv) 世の終わりを告げる天使のための虹の混乱
        Fouillis d'arcs-en-ciel, pour l'Ange qui annonce la fin du Temps
  iiiv) イエスの不滅性への賛歌
         Louange à l'Immortalité de Jésus
   2.主題と変奏:Theme and Variations
Yvonne Loriod(p), Christoph Poppen(vln),Manuel Fischer-Dieskau(cell), Wolfgang Meyer(cl)