K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

(ECM1023) Paul Bley: Open, To Love (1972) ブレイそしてアイヒャー

Open, To Love

[ECM1023] Paul Bley: Open, To Love (1972, ECM) 
A1. Closer (Carla Bley) 5:52
A2. Ida Lupino (Carla Bley) 7:33
A3. Started (Paul Bley) 5:14
B1. Open, To Love (Annette Peacock) 7:10
B2. Harlem (Paul Bley) 3:20
B3. Seven (Carla Bley) 7:23
B4. Nothing Ever Was, Anyway (Annette Peacock) 6:00
Paul Bley(p)
Design : Barbara Wojirsch
Photography: Ib Skovgaard Petersen
Engineer – Jan Erik Kongshaug
Producer: Manfred Eicher
Recorded on September 11, 1972, at Arne Bendiksen Studio, Oslo.

https://www.ecmrecords.com/catalogue/143038752079/open-to-love-paul-bley

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[2015-3-21追記] ブレイそしてアイヒャー

現代音楽が前衛的、という単純な構図は誤りで、むしろ、音の美しさや音による陶酔を追求するにあたって、従来の楽理から逸脱した領域にその答えを求める行為ではなかろうか。メシアンの調性を逸脱した曲を聴いて、はっきりそう思った。逸脱そのものが目的ではない。

Free Jazzが前衛的であり、中上健次のような「アイラー、破壊云々」のような認識も然り、で、ビート音楽による陶酔の在り方を従来手法から大きく逸脱させ、より大きな陶酔を求める営みであって、逸脱そのものが目的でない。半世紀にわたる音の蓄積のなかで、時間に濾過され、残った音はそれを物語る、ように思う。

同じようにブレイが前衛的、であるということも、何だかずれていて、知られざる美しい音への訴求である、と思う。電子音楽からアコウスティックまでブレが大きかった彼の衝動、もそんな感じじゃなかろうか。

そのようなブレイの音への訴求を、遂に「完成した」ECMの音空間のなかで、見事に捉えた作品。肉体に宿る美しきもの、への要求を音へ昇華させようとするヒトの行為が鋭く記録されている。キースのような憑依的な演奏ではない。一人の男がそこにいて、パートナーへのオマージュのような曲が並ぶ。その偏執的ですらある美への訴求ゆえ、「エロティック」と評する人もいたのだろう。

この1972年秋録音のアルバムには、もはやECMの在り方についての揺らぎはなく、21世紀のアイヒャーに通じるブレのない存在感を誇示している。この奥行きのある音空間そのものがアイヒャーであり、もう一人の奏者としてのアイヒャーが40年後のボク達に彼の世界観を誇示している。

 

[2014-2-14記載]

独り空を眺めていることが多い。そして連なる山並みを。灰色の空、白い山、流れる雲、窓を打つ霰。

刻の流れと同じくらい速く、大気が流れ、光や翳りが遠い過去に流れていく。そんな気分のなかにあるとき、金沢で聴くECMのオトは格別のものがある、ように思える。少しだけ陽が傾き、山影がひろがる時分に何も考えずに聴いていたい、と思う。

そして今は、仕事場でぼおっと、このアルバムをかけている。数ヶ月の熱狂の後、古いジャズ・レコードへの渇望も一息。

再びECM(Edition for Contemporary Music)に気持が向いている:The Most Beautiful Sound Next To Silenceが売り物のECMレーベルはかれこれ30年の付き合いだけど、最近、再び、レコードをぼちぼち。特に70年代のアルバム(ディジタルマスター前)はレコードが良いように思える。

だから、このOpen, To LoveもLPレコードで入手。キースのFacing youと同じ時期やね。音造りに通底するものがあって、後年以上に硬質のゴツゴツした、氷砂糖のような感じで、少し面白い。

このアルバムでのブレイはエロっぽい、なんて云うヒトもいるけど、ボクにはそう感じない。少し破綻しながら弾いている60年代後半のブレイの美質、解体寸前の音の断面の美しさ、を上手く集めていると思う。なんかね60年代後半のトリオの演奏の辛さ、のようなものが払拭されていて楽しい。ブルージーでない弛緩した音の楽しさを存分に楽しむ夕刻、のなかで溜息をついているのは何故だろうか。  

 

Open, To Love by Paul Bley (2008-08-26)

Open, To Love by Paul Bley (2008-08-26)

 

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背文字あり(オリジナルではない)

LC番号なし

Made in Germanyあり(オリジナルじゃない)