K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Glenn Gould: Hindemith/The 3 Piano Sonatas(1966-73) カナダに来てグールドを聴かない理由を考えてみた


 海外に出ると、仕事の時を除くと独りでいる時が長い。そんな時間がとても好きで、街を見たり、部屋でのんびりしたりしている。街の印象は、最初の数時間で決まってしまうのだけど、ボクにとってはかなり好印象の場所に来たと思っている。ふらっと入った店のビールと食事が美味しかったから。アメリカだと、それなりに調べないと駄目だし、調べても味の好みが決定的に違う時がある。日本やタイ、フランスなんかでは、店構えをみていると、さほど外れることはないよね。だから、今日、美味しくない昼ご飯を知人と食べていてモントリオールの悪口を黙って聴いていたのだけど、とても違和感があった。本人のセンスの方が問題かな、って思ったから。入る前から美味しくないと分かる店に入るのだからね。任せなきゃよかった。

  そんな昼食の後、部屋で一休み。折角カナダに来たのだから、と思い出したのは、ジョニ・ミッチェルオスカー・ピーターソングレン・グールド。ジョニは良く聴いているし、ピーターソンは音源を持ってきていない(うるさくて、あまり聴かないしね)、だから久しぶりにグールドを聴いてみた。持ってきている音源はヒンデミットのピアノ・ソナタ

 グールドは世評からも気になる存在なのだけど、何となく合わないような感じがあって、聴かない。先般、安価なCDが出ていたので、現代音楽を幾つか買ったなかの一つ。やっぱり、あんまり聴かないのだけど。この間、シネモンドで上映されたグールドの映画をみた。時代が生み出したスター性というものが朧げに分かったのだけど、ボクが魅了されない理由も何となく分かった。演奏の外にある時代性とか、存在が意味する象徴性とか、そんな知識に由来することを分かっていないからね。だから有り難がる背景を持っていない。

 演奏についてだけど、グールドの演奏の特徴(詳しくないから、そうじゃないかなと思っていると理解ください)である音のゆらぎ、のようなものが合わない、と感じてきた。特に現代音楽には、思わぬ音が作り出す、思わぬ心象を求めている。そのような心象はヒトの温もりが伝わるような演奏よりは、音の温度が低いほうが、その美しさを感じることが多い。グールドの音のゆらぎは、人間的な温もりがあって、それが音の温度を高め、生温い印象を受けてしまう。だから、好みに合わないのかな、と思う。きっと、そんな音が好きになることは、いつかあるかも知れないのだけど、今は違うなあ。

 ヒンデミットのピアノ・ソナタの良さはとても伝わったのでグールドの演奏は優れているのだと思う。音の温度が好みに合わないだけ。他の奏者でヒンデミットを聴いてみたいと思った。でも、持ってきていないのでお預け。

 まあ、そんな感じでゆっくりと時間を過ごすことに、とても価値があるように思えるのだ。

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Glenn Gould: Hindemith/The 3 Piano Sonatas(1966-73, Columbia)
   1. Sonata No.1
   2. Sonata No.2
   3. Sonata No.3