音を聴いて遊ぶ。ただ遊びなのだけど、意識の階梯を知らないうちに駆け下りる、ようなことがあって、知らない階層に取り残されることがある。降りるときには、知らないうちに下っているのだけど、音が消えその階梯が雲散霧消したように感じたとき、惨めなほどの孤独感に陥ることがある。そんな少し危なっかしい意識遊びを伴う、からこそ、音を聴く遊び(のようなもの)、は面白い。そして疲れ果てる、ことが多い。そんなことも快楽の一つなのだろうけど。
朝、陰鬱な秋の雨が降ったり止んだり。低い空に幾つにも折り重なった雲が鈍く動いている。時折、破れた処から射し込む光で遠い山並みが浮かび上がる。そんな光景をぼんやり眺めて過ごす。そんな気分のときに、このアルバムを聴いた。そして、胸を掴まれ、鼓動の揺れが夜半前まで止まらなかったような気がする。とても孤独な1日を過ごした。やはり、酒を呑むしか手立てはなかった。
ビル・エヴァンスの楽歴の初期、Riversideのアルバムをプロデュースしたオリン・キープニューズがエヴァンスに捧げたもの。演奏はライヒとかグラスなどの現代曲の演奏で知られるクロノス・カルテット。弦楽で聴くエヴァンスのピアノ曲が並べられている。ゴメスとホールが曲により加わる。
1曲めのデビーで掴まれてしまった。彼の右手と左手のパッセージを弦楽がなぞっていく。エヴァンスの指が弦に触れているような、驚き。エヴァンスが纏っていた音の空気感を見事に再び作り出している。だから愛おしいような、哀しいような感情が沸いてきてしまって、一日を台無しにしてしまう素晴らしさ。
流れる音は空に向かい消尽してしまうのだけど、その見えない軌跡が香の流れる跡のように天上に連なる。
虚空に手向けられた花のような、美しい作品。
数多のピアニストによりエヴァンスへの追悼盤(曲)があって、それを聴いているのだけど、そのようなものと次元の違う音を聴いたような気がする。彼(彼女)のエヴァンスへの敬愛あるいは勉強、のようなものを聴かされる感じ。それもいいのだけど、このアルバムはエヴァンスの作り出した空気そのもの。そこに、ある種の高み、のようなものに触れたような気がする。間違いなくエヴァンスを一番深く理解していた1人であった筈のキープニューズと奏者達のインタープレイ、なのだろう。だから、ある種のジャズ的な感触を保っているのだけど、「ジャズなのか現代音楽なのか」類の議論が下らなく思えるほどエバンスの音楽の美点を蒐集・開示している。それだけで十分なのだ。
やや惜しいのはA面でのゴメスの音のクセが気になったこと。もう少しオフ気味でも良かったような気がする。でもそれは、エヴァンスのアルバムでも時として感じたことだから、Music of Bill Evans、と思えば仕方がないのかな、とも思った。
ボクはVery Earlyが良かったのだけど、youtubeではDebbyとpeace peace (これもいい)を。
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Kronos Quartet: Music of Bill Evans (1985, Landmark)
A1. Waltz for Debby
A2. Very Early
A3. Nardis(Miles Davis)
A4. Re: Person I Knew
B1. Time Remembered
B2. Walking Up
B3. Turn Out the Stars
B4. Five
B5. Peace Piece
All songs are composed by Bill Evans (except A3 by Miles Davis), and arranged by Tom Darter
Kronos Quartet: David Harrington (1st vln), John Sherba (2nd vln), Hank Dutt(viola), Joan Jeanrenaud (cello)
Edie Gomez(b) on side-A, Jim Hall(g) on B2, B3 and B4