K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Chico Freeman: Spirit Sensitive (1979) この時間があるから

 多分、ほとんど惰性で音楽を聴いている、に違いない。だから、音を聴きながら、これがいい、あれがいい、という感覚や、感情の奥に入り込む軌跡を楽しむこと、ですら惰性に違いない。

 そんな風に感じるときは、音を聴く事を止めて、耳に何も入れない。トーン・アームを上げて、外に出て、風や水の雰囲気を感じ、ゆっくりと時間が過ぎていくことを慈しんでいれば、いいと思う。

 だから、暫くは気持ちが音楽を聴くことに入らなくて、竿を持って流れの側に立ったり、橅の森に出かけたり。

 今朝も竿を出していたら驟雨が窓を叩き始めた。そんな訳で、早い時間から仙台で買ったLPレコードを聴いていた。このチコ・フリーマンもそんな一枚。彼のIndia Navigation盤は30年前に何枚か買ったのだけど、これは漏らしていた。盤を取り出したら、懐かしい気分がこみ上げてきた。共演者のcreditを見るだけで、演奏の良さは確信に近いものがあった。だけど、想定以上だった。

 彼の太いが、それでいて繊細な響き、にすっかり魅了されて、表裏3回。ヒックスやマクビーの強いビートの上での激しいブロウを期待していたのだけど、違った。ゆったりとしたバラードでアルバムははじまり、大半がそんな曲。マクビーの図太いベースの上で自在に組み立てられる端正なテナー。伝統的なジャズの曲調が、70年代の前衛ジャズの経験でコンパイルされたような、素晴らしい高み、にある。

 アイラーやドルフィーの味を秘めながら淡々と奏されるスタンダード曲が続く。この時間があるから、ジャズが好きなんだなあ、って感覚は久しぶり。チコのアルバムでは、contemporary盤(Beyond the rain)が一番、と思っていたのだけど、これも素晴らしい。

 数decadeの時間が残酷なのは、この時代、この領域の素晴らしい奏者達から、新たな流れが出なかったことを知ってしまっていること。1980年前後に高みに達していた若い奏者達。その後の時間を如何様に生きていたのだろうか。チコのBeyond the rainや、デジョネットのSpecial editionを聴いて、チコ、マレイやブライスが創るジャズの未来に想いを馳せたのは、つい昨日のように思えるが、その後のボクの人生もそれなりに重かったように、彼らもそうだったのだろうな、って、ふっと思った。

追記:

尾川・塚本著:Independent black Jazz of Americaは、そんな彼らが活躍した時代を見事に切り取っている、という点で素晴らしい挽歌、とも云える本だと思う。

 

 

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Chico Freeman: Spirit Sensitive (1979, India Navigation)
   A1. Autumn in New York
   A2. Peace
   A3. A child is born
   B1. It never entered my mind
   B2. Close to you alone
   B3. Don't get around much anymore
Chico Freeman (ts, ss), John Hicks (p), Cecil McBee (b), Billy Hart (ds), Don Moye (ds on B3)