当時、CBSソニーから出た日本滞在中のGary Peacockのアルバム2枚のうち1枚。もう一枚はEastward。より、Peacockのベースに焦点をしっかり合わせたアルバム。滞日中、6枚(だったかな)の日本制作のアルバムにcreditされているそうだけど、あとの4枚は日本フォノグラムの銀界とポエジー(いずれも名盤)、CBSソニーの渡辺貞夫/ペイサージュ、ビクター(だったかの)のMal Waldron/First Encounter。何れも素晴らしい。菊地さんだけでなく、ブレイやピーコックが気になるこの頃である。
今、Eastwardとこのアルバムを毎日聴いているが、アルバムとしてはVoicesが好み。ピーコックのベースの魅力が直球で伝わってくる。冒頭、菊地さんのピアノがオフ気味なのは残念だけど、ピアノの音に迫る大きさの唸り声、がそうさせたのかもしれない。残念。2曲めではゆっくりとした曲調のなかで、唸り声は小さく、点描のような彼のピアノの美しさ、が映える。
面白いなあ、と思うのは電気・ピアノとアコウスティック・ピアノでの彼の音の流れの違い。アコウスティックは響かせる弾き方なので、音が少ないほど、そして遅いほど味が出る。グルーヴ感から遠いところにある。電気ピアノの流れるようなドライヴ感やグルーヴ感と随分違う。このアルバムの3曲目の電気ピアノを聴いて、それがよく分かる。音は相変わらず少ないが、すっと引っ張るグルーヴ感が気持ちよい。
60年代初めの客演盤での彼のピアノは聴いていないので、よく分からない。菊地さん名義のアルバムは、頭から電気ピアノ。そのイメエジでEastward, Voices,銀界、Poesyを聴くと随分と印象が違う。
当たり前なのだけど、このアルバムはピーコック名義。意識がすっとピーコックの素晴らしさに釘付け。最近、CDの廉価盤(実は買ってしまった)が出たので、聴いて欲しいなあと思う一枚。
Voicesを聴く朝
[2014-10-20記事] 43年前、木の楽器が唸りをあげた音
先日の音盤祭で入手したレコード。その存在すら知らなかった。ネットでの買い物にない、驚くような出会い、が嬉しい。
ジャズの中心から遠く、極東の地で生まれたばかりのレコード会社に吹き込まれたアルバム。その43年前に吹き込まれた音が、ボクの部屋で再生された。
その瞬間に、43年前、木の楽器が唸りをあげた音、が届けられた。それから暫しの間、眼の前に広がる低音であり低温でもある激しいベースに聴き惚れて時間を過ごした。近年のECMのようなあからさまな残響が設えられている訳ではないのだけど、楽器と楽器の間に奥行きのある空間が広がっている。僅かにベースが前に出て、背後に他の楽器が鳴る。2人の打楽器、ということに対し、やかましさを懸念したのだけど、抑制された素晴らしい均衡。隅々まで満足できる演奏空間。残響が強くないだけに明瞭。
激しく、そしてしなやかに伸びるベースの低音に様々な音色で他の3人が絡んでは消え、絡んでは消えていくような印象。とても美しい。そして、大きな木の楽器の余韻だけがボクの部屋に残った。
ピーコックによって作曲された曲の題名をみて分かるように、東洋的な何か、を日本での長期滞在中に感じた、に違いない。だけど、聴き手としては、そのような余計なコンテクストを抜きに、確かに1960年代にジャズと呼ばれた音楽と異なる、伝統的な黒人音楽でも、あるいは白人が洗練したそれ、でもなく、確かに新しい1970年代の音でもあり、共演者達から薫り立つような、日本的な間合い「沈黙」のようなものすら感じる。民族性・土着性を止揚し、普遍性を獲得した結果としての異次元の民族性・土着性のようなものを感じさせる。
このような音の在り方、が同時期に設立されたECMの在り方、と本質的に同じであると思う。ECMが現在に至るまで現代音楽としての室内楽・ジャズを累積してきた事実を、43年後のボクが知覚できることの素晴らしさと同時に、1971年の東京に咲いた花が、いつしか風化しているような寂しさを禁じ得ない。この時期のCBS Sonyの素晴らしさ、を感じるだけに。ヴィトウスのPurpleなんかも素晴らしい。Major labelの宿命、なんだろうな、と思った。
菊地との銀界、ポエジー、Eastward、渡辺貞夫・菊地とのPaysagesなど、彼らが間違いなく時代の先端にいた感触を味わえる。
この頃、30代であったピーコックも、もうすぐ80歳。かくも人生は短いものだ、と思う。
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Gary Peacock: Voices (1971, CBS Sony)
A1. Ishi
A2. Bonsho
A3. Hollows
B1. Voice From The Past
B2. Requiem
B3. Ae. Ay.7
Gary Peacock(b),菊地雅章(p), 富樫雅彦(perc, except B2), 村上寛(ds, except B1)