長い間、幾つかの例外を除いて、ヴォーカル、トロンボーン、バリトンサックスのアルバムは苦手だった。最近は例外が増えすぎて、どうもそうではなくなったようだ。日本語の歌詞の曲は、言葉の力が強いため、特に苦手感が強かったのだけど、それも無くなっているようだ。夏頃にこのアルバムを入手して、随分聴いた。
これがジャズかどうか、そんなことすら意識にあがらなかった。音がとにかく美味しい。その美味しさのなかに、ジャズと交差する部分もあるのだろうが。「ECMのアルバムの美味しさ」とかなり近いのだ、これ。とても透明感が強く、低めの温度感の音が空間に広がっていく。録音も素晴らしい。
ジャズという便宜的な領域定義が、領域の拡散、周縁との境界の融解により、そもそも意味を為さなくなっている。ECMが先導したのは、そのような聴き方、そのものだろう。細かなスタイルではなく、もう少し上のレイヤーからコンパイルした、ECM的な音空間。
このアルバムもECM的な室内楽で、その音空間の在り方が強固に主張されているように感じられるので、歌詞そのものは断片化され、音空間の部品になっている。だから苦手感が沸かない、のだろう。矢野顕子や浅川マキと同じじゃないかな、勿論、創っているものは随分違うが。
今年は、石橋英子他、そのように感じさせるアルバムが幾つかあって、それをアップしようと思っていたが、随分と遅れてしまった。
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小田朋美: グッバイブルー(2018, APOLLO SOUNDS)
1.Prelude 2:14
2. あおい風 3:15
3. 北へ 5:30
4. No.6 3:14
5. 星めぐりの歌 5:32
6. No.7 2:54
7. マリーアントワネットのうた 6:35
8. blue blue blue 4:58
小田朋美(p,vo), 関口将史(cello), 角銅真実(cho)