音響がとても良い映画で、彼のピアノの面白さを煮詰めた時間を過ごすことができる。1968年のセロニアス・モンク。コロンビア時代の終焉期で、1969年から次のジャズへ移行する嵐の前。その嵐とともにモンクの活動も実質終焉。ボクがモンクの死を新聞で知った頃は、遠い昔の過去の人だった。それから40年、今のほうが近い過去の人だと感じるのはなぜだろう。
2つの映画であるが、全くの地続きであり、舞台がニューヨークか欧州(西独)かの違いだけ。まるでモンクのアルバムが吹き込み時期・場所とレーベルが違うだけで、全て地続きである、ということと同じ。主役がモンクなのだから、同じになるのだ。
昔買ったアート・テイタムのアルバム、そのライナーノートにホロヴィッツから褒められた、と褒め言葉が書いてあって、書き手のハイアラーキが見えてしまって嫌な感じがしたことがある。
今回、モンクのピアノを弾く姿を、大画面・大音量で観て聴いて、ホロヴィッツとは捻れたような位相のヴァーチュオーゾであると再認識。ホロヴィッツが眼前に広がる音のスケールを縦横無尽に音を創り、聴き手の意識にその軌跡を刻む奏者であるならば、モンクは叩いた音が身体に残す軌跡が縦横無尽のグルーヴ感を創り出す、というか。勿論、ホロヴィッツほど早くもスムーズでない打音そのもの持ち剛速球のようなグルーヴ感、その速度感はまさにヴァーチュオーゾ、と思いながら画面をみつめていた。
画像は余分なもので、音が聴こえればよい、と思っている。しかし、踊るモンク、指に光る大きな指輪、様々な帽子、ヴィレッジ・ヴァンガードでのニカやマックス・ゴードンとの談笑での空気、コロンビアでのテオ・マセロとのやり取り、ジョージ・ウェインが仕切るフェスティバルでのモンク、彼の楽譜を繰り返し解釈するジョニー・グリフィン、画面もまたモンクを語る。
MONK モンクMONK
監督:マイケル・ブラックウッド/クリスチャン・ブラックウッド│出演:セロニアス・モンク(ピアノ)、チャーリー・ラウズ(テナー・サックス)、ラリー・ゲイルズ(ベース)、ベン・ライリー(ドラムス)、パノニカ・ドゥ・コーニグズウォーター│1968年│58分│アメリカ│
モンク・イン・ヨーロッパMONK IN EUROPE
監督:マイケル・ブラックウッド/クリスチャン・ブラックウッド│出演:セロニアス・モンク(ピアノ)、レイ・コープランド(トランペット)、クラーク・テリー(トランペット)、フィル・ウッズ(アルト・サックス)、 ジョニー・グリフィン(テナー・サックス)、チャーリー・ラウズ(テナー・サックス)、ジミー・クリーヴランド(トロンボーン)、ラリー・ゲイルズ(ベース)、ベン・ライリー(ドラムス)、ネリー・モンク 1968年│59分│アメリカ│