K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

加古隆・TOK:Paradox (1979, Japo)

加古隆・TOK:Paradox(1979, Japo)
   A1. Paradox
   A2. Night Music
   A3. Dodec
   B1. A Lua De Portugal
   B2. Sekitei
   B3. Wobbly Walk Parade
Takashi Kako(p), Kent Carter(b), Oliver Johnson(ds)

 キース・ジャレットのケルン・コンサートを聴いたのが1979年。それから1年ほどで日本のジャズやらフリージャズに辿りついた。前回、清水アリカのことを誉めた論調で書いていないのだけど、「終わって仕舞った時代」の過ごし方としては、似たようなものじゃなかろうか。ある種の共感はあるのだけど。

 それはともかく、日本のジャズやらフリージャズを聴く中で、勿論、日本のフリージャズも聴いていた。山下洋輔富樫雅彦、その後に梅津和時近藤等則あたりか。だから彼らのLPレコードを随分持っているし、ライヴも聴いた。ただし、富樫雅彦だけは生で聴かないうちに去ってしまったが。その富樫雅彦グループのアルバム(2枚ほど)に、ピアニストとして参加していた加古隆。静謐な空気が好きで、熱しないジャズも悪くないなあと思った。今でも、翠川敬基のチェロに富樫のブラシ、加古のピアノが作る音空間、真夏の昼下がりの沈黙のような、を思い起こすことができる。それで加古隆の名前を覚えた。

 その頃のNHKのライヴ番組セッション505(だったか)で、この加古隆のグループTOK(Takashi Kako, Kent Carter, Oliver Johnson)が出演し、面白かったので、この「パラドックス」を手にしたのだ。

 このLPは西独Japo。ときどき、ECMのアルバムと紹介されるのだけど間違い。ECMの傍系レーベルで、ダラー・ブランドのアフリカン・ピアノとか、アレキサンダー・フォン・シュリッテンバッハのグロービュニティー・オーケストラとかがパラパララとリリースされている。アイヒャーのプロデュースじゃないけど、あの質や音の温度感はほぼ同じであると思ってよい。だけど、微妙に音が違うのだけど。なんといおうか、少し匂いが違って、無機的なトーンが多めといおうか。

 さて、肝心の音楽なのだけど、このパラドックスは面白い。加古というピアニストが「フォーマット」としてのフリー・ジャズに着目していたことが良く分かる。似たようなピアニストにミシャ・メンゲルベルクがいる。モンクから黒い音色を見事抜いたようなミシャ。そのミシャからジャズ的な揺らぎを抜いて、音をもっと稠密にテンションを上げたような加古。現代音楽的な音配列を綺麗にジャズのドライヴ感にのせているのだ。だから見かけのドライヴはしているのだけど、ジャズ的なドライヴ感は一切伝わってこないパラドックス。時として硬質な音が弾けるように輝いたり、ボクが現代音楽に惹かれるときの音配列が、ウソくさくジャズのフォーマットに押し込まれている。だから面白い。

 実は加古隆も生で聴いたことがない。昨年も今年も金沢での演奏はあるのだけど、見事に都合がつかない。もっとも、今、聴かせてくれる音楽はまた違うようにも思うのだけど。