K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

アルゼンチンばかりでなく、改めてブラジルを聴く


 アルゼンチンの奏者に興味を持って、少しだけ熱心に聴いている。新しいフォルクローレのような音楽なのだけど、基底にはジャズあるいはクラシック音楽が流れていて、ボクのようなジャズ好きにも十分違和感なく楽しめる。イタリアやフランスのジャズの延長線に存在している。

 南米のそのような音楽は、勿論ブラジルが先行していて、所謂west coast jazzからボッサノヴァが派生したように、ジャズとの緊密な交わりがある。1960年代のボッサノヴァでのGetz/Gilbertは云うに及ばず、1970年代のチック・コリアのReturn to foreverでのフローラ・プリムアイアート・モレイラの決定な役割やミルトン・ナシメントウェイン・ショーター(Native dance)の美しい共演、あるいは1980年代のパット・メセニー・グループへのナナ・ヴァスコンセロスの加入など。その他、1970年代のマイルス・ディヴィス・グループへのアイアートやエルミート・パスコアールの参画など、枚挙に暇がない。

 ボクがブラジル音楽、特にMPBに瞠目したのはウェイン・ショーターNative Dancerミルトン・ナシメントを起点にジョイストニーニョ・オルタを聴いてきた。

 二回に分けて、アルゼンチンの奏者達を取り上げたのだけど、彼らと同時に最近聴いているのはブラジルのアンドレ・メーマリ。カルロス・アギューレと同じような微温の透明度の高いラテン音楽をボクたちに聴かせてくれている。なんと近作Canteiro(2011)ではアギューレが共演している。だからアンドレ・メーマリを紹介しようと思うのだけど、あわせて世代が上のエグベルト・ジスモンチ、エルミート・パスコアール、ナナ・ヴァスコンセロスもあわせて取り上げないと片手落ちのような気がしてきた。ポップな感じからはやや離れているのだけど、アルゼンチンの奏者達にも彼らの影響が大きいように思えてならない。南米の音楽風土が孕む狂気のようなもの、光だけでなく陰翳の強さをあらわし、密林の中の豊饒さと同時にオト本来の在り方、呪術的な意識の基底への下降手段、にとても惹かれるのだ。メーマリを聴きながら、逆に彼らのオトへの想いが募ったのは面白いことだ。

1. André Mehmari http://www.andremehmari.com.br/new/paginas/ENGLISH.asp

  1977年生まれのピアノ奏者。他のラテン奏者がそうであるように唄も歌うし、幾つも楽器を弾く。若いのだけど、随分と素晴らしいアルバムを出している。つい数ヶ月前に知ったのだけど、勢いよくアルバムを集めた。最新作のCanteiro(2011)では多くのゲストを集めて歌、に焦点をあてている。美しい旋律といろいろな声。2枚組なのだけど全く飽きさせない。素晴らしい。これはプロモーション・ヴィデオ?:

 

このヴィデオのなかで、素敵な水彩画が流れるのだけど、このアルバムの歌詞カード。

 多彩なオトを奏でるヒトで、同じく近作のAfetuoso(2011)ではピアノ・トリオでジャズ。

 

 このメーマリがbandolimのHamilton de Holandaとのデュオアルバムを二枚出している。そのうちの1枚がGismontipascoal (2011)。題名から分かるように、ジスモンチとパスコアルの曲を取り上げている。ブラジル音楽に狂的な陰翳を与えている二人、若手メーマリが取り上げていることに驚いたし、頷いた。

ムード音楽的に聞こえなくもない微温のラテン音楽に野生を与えている二人にヴァスコンセロスを加えて、少しだけオトを紹介したい。

2. Hermeto Pascoal  wiki

 1936年生まれのパスコアル。ジョビンとナシメント/オルタの中間の世代。古い世代なのだけど、1976年のSlaves Massを聴いても、ぶっ飛んだ感じで未来志向の音楽に驚かされる。ピアノ奏者だけど、フルート、ギター、サックスなんでもござれの怪人。密林のなかで発酵させたような曲想の深さには驚かされることが多い。寡作なので、あまりアルバムに当たらないのだけど。youtubeには沢山アップされている。

3. Egberto Gismonti wiki

 1947年のギター/ピアノ奏者。断続的にではあるがECMに数多くの録音があり、並行してブラジル録音も多く出している。パスコアルと対照的な多作家。多くの日本人はECMでその存在を認知したのではないか。ECM惹句The Most Beautiful Sound Next To Silenceの典型的なオト世界がジスモンチであると、ボクは思う。ギター自体の特性がオトを聴かせるというよりは、オトとオトの間を聴かせるようなモノであると思う。ECMの録音では、やや野生をスポイルしたような耽美的なギター・ソロやピアノを聴かせる。そして、そのギターの音の隙間からこぼれる陰翳に魅了されてしまうのだ。打楽器のヴァスコンセロスとのSol do meio dia(1978)は美しいアルバム。

ブラジル録音では、彼の野生とか毒が剥き出しになるから面白い。Carmo(1977)より。

彼の音楽そのものが熱帯雨林の多様性そのものであり、そこから生み出されるオトは呪術的な毒をもって魅了し続ける。

4. Nana Vasconcelos wiki

  前述のようにパット・メセニー・グループへの参加や、数多くのECMのアルバムへの客演でその名を知るようになった打楽器奏者。1944年生まれだからジスモンチと同世代。ECMでの録音やパット・メセニー・グループでは、エスニックな味付け、少しだけ神秘的な響きを重ねるような役回り。

ジスモンチ同様、ECMの外ではかなり荒っぽい感じでやっていて面白い。Rain Dance (1986)より。

近作Sinfonia e Batuques(2011)でも全く変わらないオトの世界で、何となく嬉しくなってしまった。水面を叩く音を使っているのだから。