K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

渡辺香津美「ジャズ回帰Duo 2012@金沢もっきりや」こんな日のために長く聴いていたような


 30年以上前にはじめて聴いたジャズはピアノが中心。ギターを聴きはじめたのは1年くらい後。大学の同級生だけど、教室では見かけないM君からジム・ホールのベルリンを借りてから。彼は授業には出ないのだけど、我が大学が誇る軽音楽部のギタリスト。ギターを聴いたら、と渡してくれた。それからボツボツ聴くようになったので、ボクのレコード棚のなかにはタル・ファーロウやウエスモンゴメリーに混じって、渡辺香津美のKYLYN LIVEが入った。その頃とても人気があって、ジャズ好きのみならず初期のYMOツアーを通じて多くの音楽ファンに知られていた。KYLYN LIVEもポップなフュージョン・アルバムなのだけど、ソリッドなギターが格好いいなあと思って、ときどき聴いていた。年に数回見かけるM君にそんな話しをしたら「ああペケペケ虫ねえ」と云った。関西有数のジャズ研の仲間内では、あのタッチをそう呼んでいたそうだ。

 就職で関西を離れて横浜近在に住んでいたのだけど、当時運営に参画していた本牧ジャズ祭で何回か聴いたかなあ。それも20年以上前の記憶。この20年は仕事中心という記憶喪失のなかにあったので、うまく想い出せないことが多い。

 だから最近の日本の奏者のことはよく知らなくて、もっぱら1970年代後半から80年代に活躍した方々の記憶が中心。

 知り合いからもっきりやでの渡辺香津美井上陽介デュオを教えてもらったとき、懐かしくてとてもいきたくなった。あのこぢんまりした空間で聴けるなんて!

 前置きが長くなった。昨夜の香津美さんの演奏はそんな私的ノスタルジイを喚起するような音の連続で、溜息、歓喜、涙腺の刺激の連続。さすがに泣きはしないが、もう子供のように楽しんでしまった。その背景、のようなものを前置きしたかったのだよね。

 最初にDear Old Stockholmではじまった時、もう瞬間で満足してしまった。ジム・ホールとレッド・ミッチェルのような重量感はないのだけど、香津美さんの音の移ろいと切れが魅力。オトの微分値が大きい。 Blue Bossa, Georgia on my MindそしてコルトレーンのMoment's Notice で何とも胸が熱くなった(順番は憶えていないからいい加減)。参った。最後は遠州燕返し。キレが気持ち良い。

 後半は自作のInner wind。これまた参った。あのKYLYN LIVEでの高らかなブロウではなくて、あの時代を懐かしみ、愛おしむようなゆっくりとした始まり。この日のために長く聴いていたように思った。ウェスのFour On Sixがはじまると、コレまた涙。ウェスともマルティーノとは違うタッチ。 ついM君のペケペケを思い出して笑ってしまった。チックのSpainも予定調和なのだけど楽しい。ジャコのPunk Jazzには泣けた。あの曲はWRで聴くよりはジャコのブート紛いの録音が好きだ。ハイラム(だったかスターン)のギターが泣く感じがね。香津美さんのギターもしっとり入って、途中ディストーションを効かせる味が、あの時代の感じが出ていて泣かしてくれた。コカインでダメダメになったジャコと香津美さんのツアーの録音が最近出たけど、youtubeで聴く限りはジャコはアカンかったけど。しめはImpressions。すっかり楽しくなってしまった。

(あれ、Someday my prince will comeはどこで演奏したかな)

 昔のフュージョン時代と同じく、色とりどりのエフェクターを効かせながらの演奏だったのだけど、それがジャズのフォーマットの上に上手く、そう美味く並べられて文句なく楽しいライヴになった。井上さんのベースは手堅く、一歩後ろで支える立ち位置なのだけど、常にドライヴが良く効いていて、とても好きな感じのベース。終演の後、平賀さんのコメント「やっぱり楽しくなくちゃね」は全く同感だった。あの広くないスペースであの演奏を聴くことができる贅沢に酔った一夜。空きっ腹にビール二本の酔いだけではないのだ。

 あとは嬉しさついでに持参のLP2枚にサインをしてもらった、20代へのフラッシュバック・オヤジになってしまった(苦笑)。