K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Joni Mitchell: Clouds (1969)  春が来て暗さを感じる奇妙さ、のなかで


 3月に仕事場の引越があった。随分と広くなって、気楽に音楽を聴いている。ただ広い部屋に独りでいると、夕暮れとともに窓から忍び込んでくる闇に背中から包まれていくような感覚がある。気がつくと、より深い漆黒のなかにゆっくりと落ち込んでいくような春の夕暮れ。冬の雪夜の明るさ、と比べると、なにか寂しさを感じる。春が来て暗さを感じる奇妙さ。

 そんな夕刻が気になって、新しい仕事場の掃除用具や食器類を買いに外出した。クルマのなかで、このアルバムをはじめてゆっくりと聴いた。清澄な声が造り出すオトの奥行きに気持ちを持って行かれてしまった。ギターでの弾き語り。その簡素な造りが声の持つ空間を押し広げているようだ。

 Both Sides Now が最後。長い間シンガーズアンリミテッドの美しいアカペラで楽しんでいた曲。はじめてオリジナルを聴いた。大方のジャズ・ファン同様、ジャコ・パストリアスと共演したミンガスで彼女が聴く射程に入った(マイルスのワイト島のライヴで観客に怒っているrespectしろって怒っていた映像は知っていたが)。ジャコと演っていた頃は低めの艶のある声なのだけど、清澄な感じはしない。その10年前の声はもっともっと純度が高いことを知った。

 すっかりLPレコードが欲しくなった理由を解説しているのだけどね。

歌詞が気になった。全体のメッセージ性よりも、選んでいるコトバのひとつひとつが声とあわせての美しさを際だたせている。

 本来、ボクはオトだけで十分。コトバが加わると強すぎて楽しめない。だからジャズの器楽が好きだった訳で、洋楽はコトバを聴かないようにフタをする(集中しなければ意味は分からない)ことが出来るので楽しめる。だから邦楽、唄は聴かなかったのだと思う。歳をとってきて、少々のコトバには引っ張られないことに驚いたのは最近のこと。そんな加齢にともなく感覚の変化が楽しいし、嬉しい。

 こちらは、シンガーズ・リミテッドのア・カペラ。原曲の空気を見事に昇華している。

 

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Joni Mitchell: Clouds (1969,Reprise)
   1. Tin Angel
   2. Chelsea Morning
   3. I Don't Know Where I Stand
   4. That Song About The Midway
   5. Roses Blue
   6. The Gallery
   7. I Think I Understand
   8. Songs To Aging Children Come
   9. The Fiddle And The Drum
  10. Both Sides Now