K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

(ECM1056)Ralph Towner, Gary Burton: Matchbook (1974) 時間が伸びやかに広がる感覚

 針を下ろした瞬間に惹き込まれた。強い力。それは音、ではない。針の先が捉えたスタディオの空気。張り詰めていて、そして静寂。タウナーの作り出す音は、間違いなくECMの音場そのもの。ここ数作、米国録音の米国奏者を聴き続け、違和感が拭えない部分があったのだけど、それが晴れた。確かに。

 タウナーの前作、Diary (ECM1032)と同じく西独での録音。同じ録音技師。バートンのヴィブラホーンも高音が伸びやかに広がっている。レコードの残響はやや強いのだけど、自然な空気を損なっていない。年の瀬の静かな朝に聴くレコードとしては最上じゃなかろうか。ジャケットの趣味もよく、手に取ると、懐かしい燐の匂いが微かにするようだ。そう、タウナーのギターには、強いノスタルジイを喚起する力がある。見たこともない光景を、聴いたことがない音から呼び起こし、既視感を強く将来する。弦楽器の弱音が奏でる音世界。最後のミンガスの曲も、そのような流れの中で良く溶け込んでいる。お仕舞いに相応しく、本を閉じたような感覚だった。

 弱い弦の音が孕む強い力、のようなものがある。音と音の間に見え隠れする遠い過去へ遡行していく意識を愉しむ。遠い過去から現在までの、時間が伸びやかに広がる感覚。

 バートンはやはり、何らかの抑制の力、ECMのプロデュースや共演者への協調、が働くときに真価が出る奏者じゃなかろうか。彼のリーダ作より、彼の良さを感じてならない。

[2011-7-22記事] 沈黙の次に美しい音

 最近,稲岡邦彌著「増補改訂版 ECMの真実」 を読んだ。そのECMの真実を読んでいて膝を打ったのが、ECM惹句 most beautiful sounds next to silence、沈黙の次に美しい音。大袈裟だけどECMの音を聴き生きてきたこと、それがどんな感性を引っ張ってきたのか。そのことを考えると、沈黙の次に美しい音、これを求めてきたように思えてならない。深く納得してしまった。

 夏が来て、暑い日々が続いている。窓を明けて寝ていると、静かな金澤の大気、深く沈黙を孕んだ風が吹き込んでくる。傍らに鳥のさえずりが聴こえたような気がして、明け方には眼が醒める。その瞬間、ボクの周りを何かが取り巻いている感触が面白い。そんなときにmost beautiful sounds next to silenceのsilenceって、こんな音かな、とふと思って嬉しくなってしまった。じゃあ,次に美しい音は何だろう、って取り出したのがラルフ・タウナーゲイリー・バートンの「Match Book」。これは1974年,まさにECMが本格的に立ち上がった時期の秀作。ピアノよりもギターのほうが沈黙を饒舌に語れる楽器だと思う。特にラルフ・タウナーはまさにそのような音を出し続けている。

 それにしてもギターとヴィブラホンの組み合わせ、しかもスイングしない音楽なんて、誰を相手に聴かそうとしたのか。1974年のリアル・タイムの聴き手とは思えない。常に未来の聴き手を求めているような音,なのだ。だから未だ時代のなかで色褪せていない。

 ボクが好きな曲はイカロス。米国のカントリー・サイドの小さな白人社会のなかで紡がれた言い伝えのような曲。天に向けて飛翔していく儚い記憶が美しく語られる曲。タウナーのDiaryで魅了された。このアルバムでは、バートンのヴィブラホンとともに,幾ばくかは明るい表情をみせていることが印象的だった。

 最後のGoodbye Perk Pie Hatを聴いていると、ミンガスの原曲とは違う哀愁を感じる。なんだろう。ジョニ・ミッチェルの「ミンガス」と同じような音世界だよね。再び、音が沈黙のなかに吸い込まれていくような感覚を残して、このアルバムは終わっていく。

参考記事:

 

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[ECM1056] Ralph Towner, Gary Burton: Matchbook (1974)
A1. Drifting Petals (Towner) 5:15
A2. Some Other Time (Green, Comden, Bernstein) 6:11
A3. Brotherhood (Burton) 1:08
A4. Icarus (Towner) 5:50
B1. Song For A Friend (Towner) 5:04
B2. Matchbook (Towner) 4:30
B3. 1 x 6 (Towner) 0:58
B4. Aurora (Ralph Towner) 5:07
B5. Goodbye Pork Pie Hat (Charles Mingus) 4:22
Ralph Towner (twelve-string g, classical g), Gary Burton(vib)
Design [Cover]: B & B Wojirsch
Engineer: Martin Wieland
Photograph: Paul Maar
Producer: Manfred Eicher
Released:1975
Recorded July, 26, 27, 1974 at Studio Bauer, Ludwigsburg