K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

ある「遭難」事例のこと(2月3日 白山)

2月3日の午前、石川県は綺麗に晴れた。インターネットでレーダによる雨雲の分布をみると山陰沖。十分安全と判断し、医王山に向かった。それでも10時頃から雲は出始め、空は次第に暗くなり、午後からは弱い雨。夕刻から南から異様に暖かい空気が流れ込み、22時頃から嵐になった。春一番だ。

昼前には登山口に戻る、ボクなりのスピード山行だった。随分遅くから登る登山者もおられて、天候の悪化が気になった。が、低山で緩やかな悪化だから、大丈夫だろうと思った。

白兀山から望む白山は、10時過ぎの時点で大汝峰の頂上が空に溶けつつあった。雲によるものだ。

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同時刻、白山へ山スキーに行った強者達がいる。卓越した体力、冬の白山を知悉した経験、冬山の技量が揃ったパーティー。白峰から登り、天気に合わせて昼までに楽々新道で一里野へ滑り降りる長駆のコース。過去の彼らの山行実績からして、無謀な印象はない。ただただ彼方の実力に羨望を超える眼差し、なのだ。

その彼らのメンバーの一人が大汝峰北方の七倉山でパーティからはぐれた。迫り来る悪天のなか、主要メンバーは何を考えたか、はぐれたメンバーはどう動いたか、仔細に以下に記録されている。

リーダ格の医師のサイト。七倉山での動きがGPSの記録でトレースされている。

(2019/2/3過ぎに記述が)==>過去ページは追えないようだ。既に読めない。

同行者のサイト。当日の写真が美しい。

(2019/2/3に記述が)

はぐれたメンバーは、単独下降中に雪庇を抜き滑落。それで破損したスキーで騙し騙し下降。途中、尾根を間違え岩間温泉方面に降りた。付近の林道は絶壁で雪崩の巣。登り返すことはできず、一晩はツェルト、もう一晩は小屋で待避。そこで2日後にヘリで救出。下降中に携帯でリーダと連絡が取れ、救出に繋がっている。

一般的な遭難事例とは随分と異なる。しかし、それでも、このような事例がある、ということだ。仔細に経緯が公開されていて、読むもの自身に自らの教訓が得られるようになっている。自らの今後への教訓を得る、その良い機会である。

無謀とは、実力、準備が客観的な状況(地形、天候)から乖離していることだ。その意味では無謀ではない(と言い切れる)。いや遭難ではあるが、一般的な遭難事例で感じるような、やるせない空気はない。冷静に判断や意思が入っている。2つ3つの間違いがあり、それに対しても強靱な復元力・判断力が働いている。しかし間違いがもたらした結果は大きいのだ。

また一つのドキュメンタリーとしても秀逸であり、一読を勧める。

一つだけ疑問があるのは、携帯電話「のみ」に頼ること。簡易無線など数kmの通信距離が得られる無資格・要免許のトランシーバーがあり、スマートホンよりは安価。その導入を考えないのだろうか。今年は渓流でも考えた方が良いかもしれない。

インターネットでの書き込みをみていると、単に無謀という嫌な書き込みもあり、溜息がでる。山に登っていると、自分なりの余裕は設けてあっても、それを上回る事態はあるのだ。それを知っているから、ワイドショー・コメンテイター的な「無謀」という言葉は安易に出ないのだ。

関係者の方々、お疲れ様でした。

追記:

実は昨年、渓流釣りで某川への入渓のために道なき道を遡上しているとき、雨後で軟化した斜面から10mほど滑落した。何回も単独でも通っているルートであり、緊張はするが、難しい処ではない。難しい処を越えて足を載せたスタンスごと落ちた、のだ。大きな崩落後でルート状況が変わっていたこと、幕営の荷物を背負っていて、いつもより10kg以上重かったこと、雨の後だったこと、悪条件が重なっている。

結果的に全治10日ほどの捻挫で済み、事なきを得た。同行者が痛み止めを持っていて、帰途も歩いて帰れたことは大きい。どんな山にも、些細な行動のなかに、遭難の芽があることを痛感した。そのような感覚の先に、あの事例がある。