K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Gil Evans, Lee Konitz: Heroes (1980) コニッツのデュオをもう少し (コニッツ追悼)

Gil Evans, Lee Konitz: Heroes (1980, Verve Records)
1. Prince Of Darkness (Wayne Shorter) 6:08
2. Reincarnation Of A Lovebird (Charles Mingus) 6:45
3. Aprilling (Lee Konitz) 6:23
4. What Am I Here For (Duke Ellington) 6:13
5. All The Things You Are (Jerome Kern, Oscar Hammerstein II) 6:49
6. Prelude N° 20 In C Minor, Opus 28(Frédéric Chopin) 6:15
7. Blues Improvisation / Zee Zee (Gil Evans) 6:14
8. Lover Man (Oh, Where Can You Be ?) (Jimmy Davis, Jimmy Sherman, Roger "Ram" Ramirez) 6:21
Lee Konitz(as, ss), Gil Evans(p)
Engineer : Chip Stokes
Executive Producer: Marc Lumbroso
Producer : John Snyder
Recorded live on January 11, 12, 1980 at Greene Street, New York City

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コニッツのデュオをもう少し聴く。

どのアルバムを聴いても、コニッツってあんまり変わらないような気がする。このアルバムでも、なんかギル・エヴァンスがコニッツの伴奏をしているように聴こえなくもない。スレィーヴ・レイシーとギル・エヴァンスのデュオにあったような、弛緩した空気(それがよかった)がない。

この何を聴いても同じ、って感覚は極端で、リッチー・コールもマイルス・デイヴィスもそうである。前者と後者の意味は全く違うけど。勿論、コニッツは後者。

今日、ニューヨークでコニッツを聴いた年を調べたら2011年でほぼ10年前。驚いてしまった。トシをとるはずだ。

 

[2012-04-05] 技巧でない巧さ

1990年に発売されたアルバム。その存在は知っていたのだけど店頭では見かけなかったし、amazonで調べてもいつも高価。だから今まで手が出なかった。もう一枚のAnti-heroとあわせて小さな棘のように刺さっていた。だから、つい先日ディスクユニオン・ジャズ館で常識的な中古価格で二枚目のAnti-herosを手に入れて、小躍りした。そうなると1枚目のHerosが気になった。面白いもので、日本のamazonの中古価格は相変わらずなのだけど、米amazonの価格がいつの間にか安価に。あわてて購入した。気になってから10年くらいたって入手できた。

入手してから分かったのは、録音は1980年であり最晩年ではない。盛んにオーケストラの活動をやっていた時分。ボクが好きなスティ−ヴ・レイシーとのデュオ「Paris Blues」(遺作じゃないかな)よりも古い。プロデューサーは当時Artist Houseを主宰していたJohn Snyder(なんと健在)。なんとも懐かしいCreditがあった。つまり、あのArtist Houseレーベル(1977-1982)のために録音された音源じゃないかな。二枚の音盤をみながら、音を聴く前になんとも懐かしい感覚。Artist HouseのLPレコードは大好きだったから。

さて肝心の中身。ニューヨークでのライヴ録音であり、小さなホール(じゃないかな)での淡々とした音の交歓が記録されている。スティ−ヴ・レイシーとギル・エヴァンスのデュオで感じたような濃密な空気感、それも暗い冬の空を沈殿していくような内向性、のようなものでない。ただただ、音を出し合いながら、曲の細部を手繰り寄せるような会話。

ギル・エヴァンスのピアノは、モンク程は頓狂でないのだけど、往々にしてミンガスを取り上げるように、ややもすれば頓狂に聴こえなくはない、ヒップなピアノだと思う。その隙間だらけの音を、レイシーはネットリと漆喰みたいに埋めていったのだけど、コニッツは同じように隙間の多い音で返している。二人とも淡々としたオトに強い表現意思を込めているので、流麗なプレイとの対極、技巧でない巧さ、をみせている。だからアルバムを鳴らすと、音の存在感はとても大きく、そして終わらせると思わせぬうちに音は途切れる。そして無音の闇に放り出されるような印象。

リー・コニッツのデュオはどれも好きだ。中途半端な感情は薄く、冷たく宙を切っていくような音の流れは、書体の墨の撥ねを眺めるような快感。昨年、マンハッタンで聴いたときも、そんな感じだった。クアルテットだったけど、ピーコックとのデュオのように響いていた。

それにしても、ギルがいた時代は矢の如く消え去った、としみじみしてしまった。