K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Denny Zeitlin: Live At The Trident (1965)長い間気にしていた割には手にしても聴かなかった一枚


 朝起きるときに、前日に感じた「身軽な感じ」が儚くも雲散霧消していないか、びくびくしてしまった。幸いなことに、雲ひとつない空の下、曇りのない気分で目覚めることができて、正直ほっとした。それくらい長い間、ヘンなものが憑いたような感覚だったからね。

 そんな訳で気分がよかったので、今朝はMcIntoshの管球アンプに電源を入れて、LPレコードをターンテーブルに載せた。聴いたのはデニー・ザイトリン。サンフランシスコの精神科医兼ピアニスト。その彼の1965年のライヴ盤。初めて聴いたのは33年前に高槻にはじめてできたジャズ喫茶(のような)店でのこと。ジャズ・ギター奏者の方が阪急高槻駅前のビルの一階に開業された。当時、阪急電車で京都の学校に通っていたので、よく立ち寄った。勿論、京都には有名店が目白押しだったのだけど、ジャズと縁がないように思えた我が町に折角できた店だからね。今の高槻でジャズ・イベントが隆盛なことには驚いてしまう。

 その店で気になったレコードが、このザイトリンのアルバム。なんとなく洒落た感じのピアノがいいなあ、と淡い印象。その後、なかなか手にすることはなかった。CDでも販売されたことがあるようだけど、ボクの基準外の高価な取引。そんな訳で、随分長い間、中古レコード屋で気にしていた(探していた、というほど熱心でない)。同時期のスタジオ録音のCDを入手し、改めてこの時期のザイトリンの素晴らしさを知ったので、ここ数年はマジメに探し始めていた。1000円台って意識だけど。金を積めば何でも手に入るが、それでは面白くない。

 やっと1500円で手にしたのは昨年。ジャケットの痛みがやや進んでいるが、米盤(レーベルみるとオリジナル盤じゃないかなあ)。期待の1曲目St. Thomasのいささか頓狂なドラムで白けてしまった。そんな訳で、長い間気にしていた割には手にしても聴かなかった一枚、になってしまっていた。

 まあ落ち着いてLPレコードに針を下ろす気分じゃなかったから、なんだけど。

 なんだか猛烈にLPレコードが聞きたくなったのは、ここ数日。改めて、このLive At The Trident を聴いてみた。よかった。この時期のザイトリンは、ビル・エヴァンスと1960年代後半に台頭するピアニスト(チック・コリアキース・ジャレット)の間をつなぐ重要な奏者なんだなあ、と改めて思った。ビル・エヴァンスの豊穣なリリシズムをもう少し冷たくし、切れを良くしたような感じ、なのだ。美しいし、よくドライヴして、時として抽象的な音世界を飛翔する。されど肉体性を失っておらず、ポール・ブレイが観念の罠にはまったようなオトを出しているのと好対照。とてもいい。チャーリ・ヘイデンも観念に過ぎず、時代のベーシストとして淡々と刻んでいて好ましい。驚いたのは、コールマンのLonely Womenでの演奏。ザイトリンもヘイデンも大きく飛翔し、新しい時代の扉を開いたような美しい演奏。すっかり心惹かれてしまった。なんでSt. Thomasで聴くのを止めたのかな。

 B面はザイトリンらしい清新なオリジナル曲ではじまる。これからはB面からかけようと思った。LPレコードだからね。よくドライヴするなあ、それに音も弾けている。

 残念でもあり、また素晴らしいとも思うのは、このピアニストの在り方は40年以上経た今でも変わっていないこと。だからジャズの歴史を動かし得る奏者であった事実はあるのだけど、動かした事実はない。それでもいいのだろうな、って針がレーベルの縁に当たり、鈍い衝撃音が聴こえ始める頃には思った。

暫く1970年代のジャズと、その周辺の音を聴き直してみたい、と思う朝だった。

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Denny Zeitlin: Live At The Trident (1965, Columbia)
   A1. Introduction   
   A2. St. Thomas
   A3. Carole's Waltz  
   A4. Spur Of The Moment
   A5. Where Does It Lead
   A6. Lonely Women
   B1. My Shining Hour
   B2. Quiet Now
   B3. At Sixes And Sevens  
   B4. What Is This Thing Called Love
Denny Zeitlin(p), Charlie Haden(b), Jerry Granelli(ds)