K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

北八ヶ岳・東天狗岳(2,640m)懐かしさで一杯の山域に


 テキサスに出かける1週間前、ボクは懐かしさで一杯の山域にいた。稲子湯から登って、黒百合平へあがった。満杯の黒百合ヒュッテで一泊し、翌朝は東天狗岳を目指した。万年初心者のボクでも上がれる冬山、の限界あたりじゃないかな。周囲には同じような、万年初心者のおじちゃん、おばちゃんで溢れていた。勿論、アイゼンは部分的には必要なのだけど、険しくないので出刃なしの6本程度で何とかなるから。

 日の出直前に小屋を出た。寒暖計は氷点下15℃なのだけど、よく晴れていて、案外暖かった。稜線に出た後に強風で寒かったのだけど。日が出ると同時に、黒い針葉樹の森が茜色に包まれていく様子が美しく、そんな雰囲気のなか登高していく幸せ、を噛み締めた。

 雪面にインクが染み渡るように染まっていく。

朝日とともに、西方にある北アルプスの峰々も茜色に染まりはじめた。

 天狗の御庭という溶岩台地を強風に煽られながら歩く。ほどなく蓼科が見えて、懐かしい気持ちで一杯。前回登ったのは20年以上昔のことなのだ。

 天狗岳はアーチ状の鞍部を挟んで西天狗岳と東天狗岳に別れる。今回は東天狗岳を目指した。

強風で顔面の感覚が怪しくなるなかで、1時間ほどで山頂に。正面の硫黄岳越しに南八ヶ岳、そして南アルプスまでの眺望が広がる。

南八ヶ岳は万年初心者には無理なのだけど、競り上がる峰を見ていると、諦めないで行ってみたい気持ちになってきた。

東天狗を降りた後は中山方面の見晴らしの良い場所に。持参したスノシューを履いてみたが、乾雪が気持よくて、随分楽しめた。それにしても遥か先に見える北アルプス穂高あたりに心惹かれた。

と同時に、ボクはやはり北八ッといえば黒い森。中山からにゅうのあたりで遊んでいたい気持ちが懐かしかった。今回は時間がなく行けなかったのだけど、にゅうへの標識をみると胸を締め付けるような酸っぱいような感覚だった。20代の頃、冬に歩きまわった辺りだからね。にゅう、って変わった名前なのだけど、たぶん古代人の信仰の場所。稲穂のような岩。それが森を割って顔を出していて、佐久のほうから見える。行ってみると、本当に小さな岩なのだけど。縄文時代からのヒトの痕跡が濃いこの山域を歩くということは、彼らの野生をほんのすこしだけ匂ってみるようなもの、だと感じるのだ。

(もう少し北には黒曜石の採掘跡があり、星糞という。星糞、という呼び名にも惹かれる)

この山域を歩くということは、山歩きがただのスポーツではなくて、心理的作用を強く与えるものだ、と知ることでもあると思う。