浅川マキプロデュースの「Zero hour」という3枚のアルバムがある。1991年の録音。ピアノは渋谷さん。(多分)販売枚数は少なく、入手も少し難しい。LPレコードはone and only的存在なのだけど、CDのようなディジタル音源の場合、再発で揃えばよい(マスタリングを変えない限り、本質的にデータは変わらない)ので、そのようなアルバムを入手することには抵抗があるのだけど、これらは特別、のような気がして、入手した。浅川マキのアルバムとともに、彼女がプロデュースしたアルバム3(Zero hour:これ、トリスタン・ホイジンガー、植松孝夫)+1(長谷川きよし)が揃った。
これは宮澤昭と澁谷毅のデュオ。テナーとピアノのデュオは好物。しかも録音は吉野金次。期待しないほうが無理というものだ。聴くと、期待に違わず、素晴らしい録音空間を味わうことができる。全部ではないが、渋谷さんが浅川アルバムで造り出す弛緩した音世界、ウィスキー・グラス片手の夜半過ぎ、が眼前に紫煙とともに浮かび上がる。浅川マキの「ちょっと長い関係のブルース」の続き、であり、彼女のセッションが終わったafter hourのなかで、テナーを片手に宮澤昭が立ち上がった趣。
間違いなく、長く聴くアルバム。宮澤昭の存在はリバイバル後、マイ・ピッコロで認識したのだけど、あの世に行く前、こんな親密な音を残していてくれた、とは思わなかった。
ところで日本のジャズが日本のジャズだと分かる(ボクより上の世代は特に)のは何故だろう。多分に、文部省唱歌の旋律がどこか隠し味のように効いているから、と思うのだけど、どうだろうか。いわゆる「中央線ジャズ」(明田川本)の味も、それとモード以降のモダン・ジャズとのミックス、だと思うのだけど。
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宮澤昭: 野百合 (1991, Toshiba EMI)
1. 野百合 (宮澤)
2. 12+2(宮澤)
3. 秋意 (渋谷)
4. Beyond The Flames (渋谷)
5. Sea Horse(宮澤)
6. 浜名湖(宮澤)
7. Water Beetle(宮澤)
8. Dozing Blues(宮澤)
宮澤昭(ts), 渋谷毅(p,org)
Recording: 吉野金次
Producer: 浅川マキ
Recorded at Toshiba EMI 3rd Studio on 1991. 12. 5-6