先日、クルマのなかに流れる音楽(iPODでランダムにしている)を聴いて、誰だろう、って思った。1970年過ぎのマイルスだよな、って思った。でも、なんか空気感が違うので、画面を見ると菊地雅章のOne way Travelerだった。菊地雅章は1970年代マイルスの音楽に寄り添うように音を造り、さらにその先へ進もうとしたのに違いない。確かにSustoやOne way Travelerは、その成果であり、復帰以降、よりポップな指向に転じた1980年代マイルスよりも、より1970年代マイルス的であった、と思う。かといって、決してマイルスの模倣ではなく、あのグルーヴ感をマイルス的な鋭角なものから、全体で大きく円弧を描くようなグループ表現に発展させていた。その先を期待していたのだけど、長い沈黙の後のAll night, all right, off white boogie bandのライヴ盤を聴いたが、確かにこれが、この路線の最後のアルバムであることが納得できるものだった。何かが生まれているのではなく、全てがフェードアウトしていくようなアルバムだったのだ、残念ながら。この菊地雅章のグルーヴ路線(?)の起点がダンシング・ミストで、実質的な初リーダ作Poo-sunで取り上げられている。
考えてみたら、ちょっと考えられないアルバムで、当時の菊地雅章の当たり曲であるダンシング・ミストのみを集めたLP2枚組。熱心なファンしか手にしなかったのではないか。だから彼のレコードのなかでも入手が難しいものじゃないかと思う。先般からの菊地雅章の再発アルバムのリストからも漏れている。
記録的なことを先に述べると、2枚目のB1を除き、全てライヴ録音。会場は熱気に溢れていて、菊地雅章のダンシング・ミストは、日野皓正のハイノロジーみたいなものだったのかな、と思う。またトラックのうち2曲は別アルバムで既出。2枚目のA1はアルバムPoo-sunでのスタディオ録音。B1はアルバムDancing mistでのライヴ。従い、レコード1枚分と1曲が初出。だから、これらを除いてCD1枚で再発すればよい、と思うがどうだろうか。
レコード2枚のダンシング・ミストを聴いた訳だけど、案外、大丈夫。 日本のジャズの熱気の缶詰みたいなアルバム。基本的には菊地とリズムセクションがミニマル的にパターンを繰り返すなかで、個々のソロにスポットをあてていくので、ライヴでの長尺のソロを楽しみことができる。冒頭の日野皓正とジョーヘンダーソンも聴かせるソロで、コンサート会場の盛り上がり、もよくわかる。一番空気が異なるのは2枚目B2。ジシンと始まるのは日野元彦の効果か。渡辺貞夫のソプラニーノと増尾好秋のギターが他のトラックとは異なる空気を作っている。
アルバム全体を通じ、峰厚介がソプラノ・サックスを吹いているが、電気ピアノと一体で熱く・伸びやかにグルーヴしている。
ところで聴き手の話なのだけど、ダンシング・ミストがはじまると手拍子で迎え、ソロが終わると拍手に加えピーピー。これって最近はないなあ、と懐かしい。1970年代の終わり頃にはあった(手拍子止めて欲しいなあ、と思った記憶が)。いつからなくなったのかな。今のほうがいいのだけど。
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All about dancing mist (日本フォノグラム)
(Disc1)
A1.Dancing mist with Joe Henderson (Aug. 5, 1971)
菊地雅章(el-p), Joe Henderson(ts), 日野皓正(tp), 峰厚介(ss), 鈴木良雄(b), 村上寛(ds), 中村よしゆき(ds)
B1.Dancing mist at the Yamaha hall (Jul. 3, 1971)
菊地雅章(el-p), 峰厚介(ss), 鈴木良雄(b), 村上寛(ds), 中村よしゆき(ds)
(Disc 2)
A1. Dancing mist with Masabumi Kikuchi Septet (Aug. 22, 1970)
菊地雅章(el-p),市川秀男(org), 峰厚介(ss),池田芳夫(b), 日野元彦(ds), 村上寛(ds), 岸田恵二(perc)
A2. Dancing mist with poll winners (May 29, 1971)
菊地雅章(el-p), 日野皓正 (tp), 峰厚介(ss),渡辺貞夫 (sn), 村岡建(ts), 増尾好秋(g), 稲葉国光(b), 日野元彦(ds)
B1. Dancing mist at the Sankeihall (Nov. 13, 1970)
菊地雅章(el-p), 菊地雅洋 (org), 峰厚介(ss), 池田芳夫(b), 村上寛(ds), 岸田恵二(ds)
岩浪洋三さんの曲目解説