K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

山本素石: 山釣り(ヤマケイ文庫)

 以前、釣り人でもある杜氏のIさんに勧められた山本素石なのだけど、すぐには手が出ていなくて、近刊の文庫で入手。実に面白い。関西へ法事で出かける車中で読み終えた。 

山釣り (ヤマケイ文庫)

山釣り (ヤマケイ文庫)

 

 数多の渓流釣り本、と異なるのは、渓流釣り、そのものの場面が実に少ない(この本での選び方なのか、本人の傾向なのかは知らない)。そうではなくて、渓流を抱え込む山村へのオマージュ、のような本で、作者が活動した高度経済成長期前後での、山村の変容が行間から伝わる。山での怪異現象のようなものも、さらっと書いてあって実に面白い。つい半世紀まで、底知れぬ闇と隣り合わせに生きていた時代を彷彿とさせる。

 ボクも山歩きの延長で犀川源流域に入る。倉谷廃村に入ったときの、あの言葉に出来ない感覚、にようなものに心惹かれている。長崎氏の著作から、まだ電気もない山村に人々が住んでいた時代の面影を感じ、そして、あの明るい台地上の土地にあった村を想う。そのような感覚、が山本素石の文章には溢れていて、胸に迫る。滋賀南部、木地屋の故郷に近い出身。そのような田舎育ちの著者の語り口は奔放であっても、失われた時代への哀感とともにある文章は味わい深い。

 有名な「ねずてん」(狐狸が好きな鼠の天ぷら、の話)も面白かったのだけど、「山家獨居」の味わい、が良かった。ボクには独りで倉谷廃村に天幕する根性はないので、廃屋での一夜は鬼気迫るものを感じた。怪異譚よりもリアルな感覚として。

 

わが白山連峰―ふるさとの山々と渓谷

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