ECMに関心があるならば、数々のアルバムで印象深いクレーメルが金沢にやって来た。それを知ったのは、コンサートの前日:
おお!
— kanazawa jazz days (@kanazawa_jazz) 2019年5月1日
5/3-5 ギドン・クレーメル来日〜金沢・風と緑の楽都音楽祭2019 https://t.co/jXZuWBFtog
最後の残席を確保した。内容は、ヴァインベルグの24の前奏曲、本来チェロのための無伴奏曲であるがクレーメルが編曲。さらにリトアニアの写真家アンタナス・ストクスの写真を投影。最近の取り組みのようだ。
ヴァインベルグの24の前奏曲は怖ろしいほどの沈黙を内包し、それを様々な弦の音、それも疎な音で組み立てられている。ホールの空間が深淵な闇のなかに包まれるような感覚。曲自体は現代音楽的な響きを孕んでいる訳ではないが、現代音楽以上に20世紀(それも前半)的なアヴァンギャルドの匂いに満ちていて、興味深いものだった。クレーメルは様々な弦の音を美しく紡ぐとともに、抑制的な音で、闇の中での呟きやささやきのような印象を与えた。
演奏と並行し、闇の中からアンタナス・ストクスのモノクロームの写真が浮かび上がる。ソヴィエト時代のリトアニアか。抑圧的な統治の中での凍り付いたような時間。モノクロームの写真のなかの光が明るさを表現しているのではなく、暗部を強調するために存在しているような、そんな印象。
生まれた直後からソヴィエトに統治されたラトビア出身で西独に亡命したクレーメル、ポーランドのユダヤ人で、ナチスのポーランド侵攻の後にソヴィエトに亡命したヴァインベルグの経歴と合わせ、(今は概念的に消失した、ワルシャワ条約機構で定義された)東欧の「戦後」を隈取りして味わったような、複雑な印象を残した。
夕方17時過ぎ、コンサートが終わり、邦楽ホールの外に出ると、明るい斜光のなかに伸びる影と冷たい風が妙に印象に残った。
あとはSpotifyで復習:
これはチェロでの原曲: