K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Cedar Walton: Pit Inn (1974) 村上春樹の文章はともかく

Cedar Walton: Pit Inn (1974, East Wind)
EW-7009
A1. Suite Sunday (C. Walton) 10:04
A2. Con Alma (D. Gillespie) 7:40
A3. Without A Song (B. Rose, E. Eliscu, V. Youmans) 8:50
B1. Suntory Blues (C. Walton) 9:23
B2. Round Midnight (B.D. Hanighen, C. Williams, T. Monk) 7:01
B3. Fantasy In "D" (C. Walton) 7:18
B4. Bleecker St. Theme (C. Walton) 2:52
Cedar Walton(p), Sam Jones(b), Billy Higgins(ds)
Engineer [Recording, Remix] – Yoshihiro Suzuki
Producer: Toshinari Koinuma
Producer [Album Produce, Direction]: Yasohachi Itoh, Yukio Morisaki
Recorded live December 23, 1974 at "Pit Inn", Tokyo.
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コールマン目当てで聴いたEastern Rebellionでシダー・ウォルトンに刮目:

そこで微かに思い出したのは村上春樹がシダー・ウォルトンを取り上げていた、と。日本のライヴで念じていた好みの曲を偶然弾いてくれた。。。。と。

実はこの記憶、とてもいい加減。調べてみると、「意味がなければスイングはない」での硬質なシダー・ウォルトン論(ジャズガイド的な記述として最高。小説的な潤色が強い和田誠との絵本、より何倍も好きだ。)と、「東京奇譚集」でのトミー・フラナガンの話、それもケンブリッジのレガッタ・バーでのこと、が混じったものだった。

村上春樹『東京奇譚集』 (ここに文章が掲載。ちなみに、ここで書かれているバークリー近くのレコード屋はLoony tunesではないか、多分、間違いなく、米国・Boston「Looney Tunes」: バークリー音楽院裏の中古レコード屋のこと - K’s Jazz Days)

 

さて前置きが長すぎた。ジャズでのシダー・ウォルトンの地味で存在感の薄さのようなこと、について村上春樹が記述している。全く同感で、ジャズメッセンジャーズに興味が持てなかったボクにとっては聴く契機はなかった。村上春樹の文章を読んでも、全く聴く気が起こらなかった。彼の音が主流派の一角を構成した1960年代にはメジャーに成りきれず、1970年代以降は主流派の音自体に焦点が当たっていない。1960年代と1970年代の間、に落ちた奏者なんだろう。

村上春樹が聴いたシダー・ウォルトンはピット・インでのライヴ、1974年12月23日。Eastern Rebellionでのウォルトンのピアノの良さ、を知ったので、早速CDを入手。

さらに近所のエスタシオ・レコーズからレコードも入手。

これが村上春樹が聴いた当日のセッション。レコードに封じられた音よりもナマが良かった、そうなのだけど、実に素晴らしいアルバム。

まず録音が素晴らしい。最後の曲での余計な手拍子(当時のライヴで、ジャズに手拍子のお客が多かった、のだ)はご愛嬌として、会場の臨場感、ピアノの弾ける音響、そして何よりも電気増幅の誇張を感じさせないベースが素晴らしい。大好きな1970年代のジャズでの難物は増幅で誇張されたベースの音。サム・ジョーンズもそんな音が多々。

そしてピアノ・ベース・ドラムが密に嵌合したドライヴ感が素晴らしい。どの曲もどのソロでも、3者が次々とリードしながら緊密なビートを繋いでいく。その自然な昂奮が会場を包んでいく、1970年代の観客に巻き込まれていく。

さらに曲がいい。B面、ウォルトン作曲「Dの幻想」は彼のピアノの魅力を凝縮したような曲で、美しく粒立つピアノの音が随所で弾けている

そんなこと、こんなことで心奪われながら、Bleeker通りのテーマの手拍子でハッとする、1974年のライヴなんだと。久しぶりに「伝統的なピアノ・トリオのスタイル」に心奪われてしまった。


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