K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

服部文祥:北海道犬旅サバイバル(2023、みすゞ書房)これを登攀記・冒険譚と理解しなければ抜群に面白い

これを登攀記・冒険譚と理解しなければ抜群に面白い。かつて、彼の初?の著作「サバイバル登山家」をみすゞ書房から購入したが、面白くないので読むのを止めてしまった。彼のサバイバルって、ポイントが登攀の話じゃないんだよね。

なんか面倒くさい文を書く人だな、という印象。もうフロンティアらしいフロンティアが無くなってきた時期に登場した大学山岳部の末裔(これまた抜群に面白い和田城志の著作に登場する服部を知ってそう勝手に思った)が、拗らせたフロンティアを作った感じ。登山が個人的営み、であるとすれば、それは拗らせではなく、個人的な理念ではあるのだけど。

今回、何となく読んだら1日もかからず読了。面白くてすぐ読み切った。登山・冒険の本の面白さではない。厳しい山嶺は避けているし。ルールへのこだわりも、まあ、という感じ。記述の多くは国道沿いの徒歩。

近年の著作の面白さは、「アウトドア私小説のテイスト」ということに尽きるのではないか。無銭に起因する食などに対するいじましさ、対人の妙などなど。彼の心理的なゆらぎが、頑なな美学と同居していて、その関係性の軋み、が読みどころ。また犬との関係性もまた実に面白い。

要は山登りの世界の変人が書く私小説と捉えると、深く腑に落ちたようなような気がするのだ。そんな気持ちで、みすゞ書房の「サバイバル登山家」を読み直しはじめた。面白さ、のポイントを掴み損なっていた、ことが分かった。著者は全く変わっていない、のである。