K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

(ECM1009) Chick Corea: A.R.C. (1971) 分解寸前の音が孕む力

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[ECM1009] Chick Corea: A.R.C. (1971,ECM)
  A1. Nefertiti
  A2. Ballad for Tillie
  A3. A.R.C.
  B1. Vedana
  B2. Thanatos
  B3. Games
Chick Corea(p), David Holland(b), Barry Altschul(ds)

Design: B & B Wojirsch
Engineer: Kurt Rapp
Producer: Manfred Eicher
Recorded on Jan. 11, 12 and 13, 1971 at the Tonstudio Bauer, Ludwigsburg, Germany
Released: 1971 ?

https://www.ecmrecords.com/catalogue/143038750590/arc-chick-corea-dave-holland-barry-altschul

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[2015-2-3記] 分解寸前の音が孕む力
西独盤の3枚目、背文字なし、のオリジナル盤が届いた。さして高価ではない。

音質なのだけど、ピアノの余韻がより透明度が高い音。素晴らしい。確かに違う。面白いのは1stジャケット(三角)の後年プレス(背文字あり)と2ndジャケット(道)はさほど違わなかった。これらの間の違いよりも、同じジャケット(三角)の背文字あり・なしの方が音質の違いは大きい。時期が違うっていっても、どのレコードにもLC番号はない。全て1970年代真ん中以前のプレスなんだけど、より古い方がよい音がする。アタックがやや弱く、ECMの音のイメージにより近い。面白いなあ。

[2015-2-2記]

西独盤を2枚持っている。35年前に買った「道路の写真」のジャケット。それが後年な盤(でもLC番号はついていない)と知って買い足した最初のジャケット「三角形」のもの。LPレコードは刻印含め同じ。その頃のレコード盤にはレコード番号だけで、マトリクス番号は刻印されていない。音はどうだろうか、って思った。

結論から云うと、顕著な差はない。「三角形」のほうが、若干前に出ているかなあ、ってくらい。実は、まだ古いプレスの判別法がある。ジャケットの背、である。ボクのアルバムにはタイトルが印刷されているが、印刷されていないものもある。それがオリジナル。という訳で、現在、注文中。(やれやれ)

さて録音そのものだけど、ほとんどECM。左端にドラム、右端にベース。真ん中よりやや左よりに「楽器の大きさ」を想起させる幅のあるピアノの音像。叩く鍵盤により音が遷移する。音が明瞭に定位されている。1曲目のネフェルティティで、ピアノのソロから、左右のリズムが入った瞬間にスタジオの空間が一気に広がる感じが快感。

ほとんどECMと書いた理由は音の強さ。ECM的な透明度があり、温度の低い音ではあるのだけど、米盤のような音がクッキリでアタックが強い感じが加わっている。後年の録音は、もう少し柔らかいのではないかと思う。だけど、後年の録音でも未発表のキューンのものとか、ECMと思えないジャズっぽいキツイ録音もあるので、すでにECMの音世界の「振れ幅」に入ってきた、のかもしれない。勿論、トン・スタディオでKurt Rappが技師。この時期のECMサウンドの中心。

[2014-1-16記]

昨夜遅く、自宅から犀奥に向かう途中にある、隠れ里のようなところにある珈琲店に連れて行ってもらった。独りでは、とても行けないような場所。静かで真っ暗。

そんな場所で、珈琲の味には全く煩くないボクが驚くような、濃く苦くそして淡い、不思議な味を楽しむことができた。それ以上に惹かれたのは、古いタンノイのスピーカから流れる豊かな音。容積の大きな、そして(多分)能率が低いスピーカが持つ、音の広がりのようなモノに聴き入ってしまった。そして、そんな静かな山里で、若い店主とECMの話で盛り上がったのには、いささか驚いてしまった。なかなかECMの話題で盛り上がる経験、って、身の回りじゃないよね?

最近のレコード蒐集は1960年代以前の古いプレスの音を楽しむ、ということに焦点をあてている。Blue NoteやPrestigeのVan Gelderや、ContemporaryのDuNann。録音が良いから、という理由。同じ理由で、1970年代のECM、特に西独盤をゆっくり買い集めている。全く違うヴェクトルの音なのだけど、静謐で透明度が高い音の魅力は何者にも換え難い。

最近、「再び」手にしたのはチック・コリアのA.R.C.。とても好きなアルバムで彼の数多いアルバムのなかで上位3位くらいかな。サークルの壊れた音はともかくとして、一番Free jazzに近い時代の音。分解寸前の音が孕む力、を強く感じることができる。そして、そのような音の色彩感、多様な無秩序な音の細片が構築する万華鏡のような音場に魅了される。ピアノの音のみならず、ベース、ドラムの乾いた音が唸りを上げてビートを刻む様は美しく凶暴。完全に破壊された世界では感じ得ない、ぎりぎりの緊張感に浸ることができる。

ショーターのネフェルティティ(古代エジプトの女王)は美しい曲なのだけど、原曲の気怠い雰囲気とは違う。地上から天上にに放たれる光束のような力、に驚いてしまう。

実は西独盤のA.R.C.は2枚目。1979年に京都の十字屋で買ったのは、道路のジャケット(下左)。これはオリジナルのジャケットじゃなかったようだ。三角形のARC(当時の日ポリドールがこれだった)がオリジナルと知ったのは最近。そんな訳で、ふっと買った次第。初期のECMはトリオ・レコードとの契約はなく、幾つかのレコード会社から各社のレーベルで発売されていた。ネットで見ていたら、初期の日ポリドールは違うジャケットのよう(下右)。ECMが認知される前の話。ポスト・アイヒャーの話題が出る最近とは隔世の感がある、と思うのは50代以上だろうなあ。やれやれ。

 

参考記事:

A.R.C

A.R.C

 

(オリジナルじゃないが初期のジャケット:背文字あり)

 

[secondのジャケット:すでに1979年はこれ]