K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Jazz会#7:夏の終わりに聴くサックスは


0.プロローグ
Stan Getz & Joao Gilberto: Getz/Gilberto  (Verve,1963)
Stan Getz (ts), Antonio Carlos Jobim (p), Joao Gilberto (g, vo), Tommy Williams (b), Milton Banana (ds), Astrud Gilberto (vo)
Bossa Novaは盛夏の音楽ではなくて,去りゆく夏を想いながら聴く音楽じゃないかな.ジャズ・サックスのアルバムとして疑問符がつくかもしれないが,Free Jazzの勃興で娯楽性を失い失速中だった当時のジャズにあって大切なアルバムじゃないかな.もっとも,Stan Getz とJoao Gilbertoの仲が当時から既に悪かった,という笑い話があるが.
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前回のジャズ会のエピローグはBill EvansのAffinityで哀感を感じながら締める予定だった.「だった」,というのは予期せぬ飛び入りがあったから.ジャズ会の最後に雷鳴とともに豪雨.梅雨から夏へうつる瞬間に立ち会ったのだ.
夏の終わりに合うサックスなんて,実は思い浮かんでいないのだけど,プロローグのGetz/Gilbertoだけは,そんな気持ちが少し伝わりそうな一枚かな,と思っている.

今回もLPレコード主体で選盤.真ん中に恒例のクラシックタイム,前後はテーマ設定せずにジャズ喫茶っぽい感じで並べた.コーヒー付き!

1.前半
(1)Art Pepper: Meets the rythm section(1957, Contemporary)
Art Pepper(as), Red Garland(p), Paul Chambers(b), Philly Joe Jones(ds)

"the rythm section"とは,大戦前は黄金期のCount Basie Orchestraのリズム隊の通称だったようだけど,この場合はMiles Davis Quintetのrythm section:Red Garland(p), Paul Chambers(b), Philly Joe Jones(ds).Milesのツアーで西海岸に来たときに所謂West coast jazzの名手Art Pepperと共演したアルバム.Art Pepperは「ディーン張りの男前だった」Chet Bakerと人気を二分していたのだけど,Baker同様ヘロインで随分長い間ダメだった人.日本からの取材に「ヘロインはダメだよ」とマリファナを吸いながら諭していたそうで.
(一曲目の「You'd Be So Nice To Come Home To」は,「もっきりや」で渡辺貞夫のアンコール曲)

(2)Sonny Rollins: A night at the Village Vanguard (1957, Blue Note)
Sonny Rollins (ts) Wilbur Ware (b) Elvin Jones (d)

同じ1957年の東海岸,NYCのthe Village Vanguardのライヴ.ソニーロリンズで一番好きな一枚.一曲目はOld devil moon.満ちつつある月をお伴に.

(3)Paul Desmond: First place again (1959, WB)
Paul Desmond (as), Jim Hall (g), Percy Heath (b), Connie Kay (ds)

Paul Desmondは60年代にDave Brubeck(p)とのグループでtake fiveをヒットさせる.アルトサックスは熱くなるとヒステリックになるから余り好きになれないことが多い.熱くならないことと,冷たいこと,は同じじゃないって,Paul Desmondで何となく分かると思う.

(4)Stanley Turrentine: Sugar (1970, CTI):CD
Stanley Turrentine (ts), Freddie Hubbard (tp), Hubert Laws (fl), Johnny Hammond (el-p, org), Lonnie Liston Smith, Jr. (el-p), Butch Cornell (org), George Benson (g), Ron Carter (b), Billy Cobham(ds), Billy Kaye (ds), Richard "Pablo" Landrum (cga)

CTIは1970年当時に「商業ジャズ」を追求したレーベル,と云われ続けたのだけど,どうして今になって聴きたくなるような音を案外残している.まあジャズはエンターテイメントだからね.ジャケットがちょいエロだしね.

(5)Buddy Tate meets Dollar Brand (1977, Chiaroscuro)
Buddy Tate (ts), Dollar Bland (p), Cecil McBee (b),  Roy Brooks (ds)

楽歴をCount Basie Orchestraからはじめたので,何となくSwing世代の過去の人のイメージがあったが,30年前の新進気鋭Dollar Bland (p)やCecil McBee (b)とのプレイは,骨太のテナーの音色が映える.
(Dollar Blandは,その後,Abdullah Ibrahimと改名している)

2.クラシックタイム

3.後半
(1)Wayne Shorter: Native Dancer (1974, Culumbia)
Wayne Shorter (ss, ts), Milton Nascimento (vo), Herbie Hancock(p), Airto Moreira(perc), Dave McDaniel, Roberto Silva, Wagner Tiso, Jay Graydon, Dave Amaro.

洗練されたBossa Novaはブラジルでは早々に人気は下がったようで,70年代はMPB(
Musica Popular Brasileira)と呼ばれるブラジルポピュラーミュージックが興隆.Milton NascimentoやToninho Hortaなど,当時の荒削りなブラジルの音に魅了された.そのMPBとJazzの幸せな結合.魚たちの奇跡,はボクの頭のなかに住み着いている. Wayne Shorterはボクが一番好きなサックス吹きかもしれない.

(2)Archie Shepp & Dollar Brand: Duet (1978, Duet):B面
Archie Shepp(ts,ss), Dollar Brand(p)

暑苦しい持ち味でボクは案外好きなShepp.日本製作の本LPのB面では,意外な曲をやっている,といっても面白がれる年齢はボクだけか? (ジョー山中が唄う,角川映画の主題歌なんだけど)

(3)John Coltrane: Soultrane (1958, Prestige):B面
John Coltrane(ts),Red Garland(p), Paul Chambers(b), Art Taylor (ds)

かのコルトレーンは60年代は「精神性」を極めていったことになっているけど,何が面白かったのだろうか.今となっては,ボクにはその意味や意義は理解できない.50年代のプレイは「自由な開放されたジャズ」という鎖がない,伸び伸びした「普通のモダンジャズ」を聴くことができる.

(4) Art Pepper: So in Love (1979, Artist House):B面
(i)Art Pepper (as, cl), George Cables (p), Charlie Haden (b), Billy Higgins (ds)
(ii)Art Pepper (as,cl), Hank Jones (p), Ron Carter (b), Al Foster(ds) 
Side A- 1. Straight, No Chaser(ii), 2. Blues for Blanche(i), 3. So in Love(i)
Side B- 1. Diane(ii), 2.Stardust(i)

前述のようにArt Pepperは麻薬禍のために60年代の大半を療養所で過ごし,70年代半ばにジャズ界に復帰,でも82年には病死という案外短い楽歴.復帰後のPepperは甘さよりも厳しさの目立つプレイが多かったが,この一枚は流れるような時間を回顧しているような趣があり好きだ.

(5)宮沢明: My Piccolo (1981, Paddle Wheel)

宮沢明(ts), 佐藤允彦(p), 井野信義(b) except B2, 日野元彦(ds), 稲葉国光(b): (B1, B2)
この頃の日本のジャズは大好きで,越路吹雪のバックバンドをやっていた宮沢明を引っ張り出して吹き込んだこのLPの宮澤のトーンが素晴らしい.

4.エピローグ
Lee Konitz & Michel Petrucciani :Too Sweet (1982, OWL):CD
Lee Konitz(as), Michel Petrucciani(p)

甘すぎる,というアルバムタイトルなんだけど,ケーキや和菓子の甘さではなくて,Sorbetの甘さ.口に入れると舌先がツンとくるような冷たさなんだけ ど,溶けていくときの甘さも格別.Lee Konitzは楽歴がとても長い人なのだけど,後年の若手とのプレイが好きなだなあ.といっても,この1982年の若手(ボクと同世代)はさっさとあの世 に行っちゃったけどね.少し冷たいプレイを聴いて,酔いを醒まして,今回もお仕舞いね.