K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

夏の終わりのようなトラキア:欧州に沈む日、アジアから浮かぶ月


  欧州の東端トラキアの東の果てがイスタンブール

  地誌の定義ではウラル山脈が欧州の東端ではあるが、果たしてロシアが欧州国家か。モンゴル国ジョチ・ウルス(金帳汗国)から帝政の承継を受けたロシア帝政、コミュニズムをアジア的専制をもって完成させたソヴィエト連邦、そしてプーチンのロシア。アジアの光景ではなかろうか。

  アジアの海に呑み込まれたトラキアで感じる空気は欧州そのものであり、そこにモスレムの風が吹く。この地の東の海で欧州は終端され、アジアがはじまる。そんな見えもしない破断線を眺めながらひねもす過ごしている。風はアジアから吹き上げている。

  そして、ときには雑踏のなかを歩いてみる。雑踏のなかに降り立つと、トラキアの地とは云え、アジアの色に深く染まっている。男たちはガラタ橋から釣り糸を足れ、時間をつぶしている。バンコクでも見かける暇な男の光景。

  ガラタ橋のたもとにあるエジプト市場にはいると、アジア的混沌、むしろ中東的な冷めた熱気のなか。お決まりのような客引き、叫び声、過剰な陳列...

物理的な熱気にあたってしまって、意気があがらない。部屋で再び、破断線を眺めながら時間を過ごす。東を向いた部屋から薄暮に埋もれていく海峡を眺める。風が夏の終わりを告げている。冷たい。

夜も8時を過ぎると、ようやく日没。部屋の反対側、欧州たるトラキア西部のほうに沈む陽の様子がみえる。ラマダンなので、断食終了の告知が拡声器から街に放たれる。きっと街頭には人が溢れているだろう。ボクは風にあたりながら、やはり海峡を見続けた。

月が海峡の何処に浮かぶか楽しみだったのだ。ボスポラス海峡の大橋に照明が灯る。街のざわめきが風に乗ってやってくる。なかなか月が上がってこない。あるとき気がついた。大橋のうえに照明灯のように浮かぶ月。大気圏の土埃を通しているからか赤黒い。それがそうだと気がつくまで、人工的な造作のような顔をしているとは思わなかった。

高度を上げるに従って色が白くなりゆく様に驚きながら、アジアから浮かぶ月を眺めていた。