K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

金澤・菊川のあたり:夜半過ぎに旧い道筋をたどると


 笠舞の丘の上に住んでから、もうすぐ5ヶ月。勿論、気に入ったから住むことにしたのだけど、この土地をますます気に入っている。夕暮れに歩いていると、隣の神社の大欅、笠舞の大欅って云うそうだ、の向こうに夕陽が沈む。とても大きな影が茜色の空に浮かび上がる。沈む夕陽を追いかけて歩くと、最後は「笠舞のくらがり坂」に落ちていく。丘の上には年中風が吹いていて、どこかに連れていかれそうな心地にもなる。いつも山の方から吹く風。南風。

 片町まで歩いて30分弱。前、住んでいた泉野のあたりと同じくらいの道のり。泉野の頃は、蛤坂を上がって鶴来街道を歩くことが楽しみ。六斗の廣見のあたり、大銀杏の怪しいこと。誰もいない風の晩、木琴を叩くような音色が響くのを聴いてしまった。乳臭い匂いとともに。

 ここには犀川の大通りを歩けば、真っ直ぐ帰ることが出来る。だけど、最近は菊川のあたりを通る古い往還を面白がって通っている。昭和の中頃から明治の頃までの街の景色が万華鏡のように、ころころと変わりながら続く。殆ど人は歩いていない。夜半過ぎに旧い道筋をたどると、人っ子一人いないのに、何とも賑やかしいように感じてしまう。風の音、辻を曲がると轟音を立てる用水、風に乗ってきこえる犀川の瀬。そして姿のない人達が気配だけ流している。お化けや幽霊ということではない。ボクにはそんなものは見えない。ただ気配がそこにあるだけ。そんな不思議な雰囲気がとても気に入って、酩酊していても歩いてしまうのだ。

 ある夜、夜半過ぎに辻を曲がったら、そこが少し違う空間になっていることに気がついた。空が僅かに明るく、雲が流れていた。そして雲を背景に威風堂々とした大木の影が睥睨していた。ただならぬ大気の流れ、のようなものがあった。妖気、に近いのかもしれない。まあ酔っぱらいの感性なんだけど。

 後日、昼間に行き当たったら、金沢市文化財で江戸時代の足軽屋敷とか。長い時間の累積が作り出す何か、があるのかもしれない、と思った。