K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Miroslav Vitous: Purple (1970) 結局、聴きたいオトはコレだったのではないのか

 年末に届いたLPレコード。紫色のジャケット。たまに店頭でもみかけたけど高価だったから放置。安価にオークションで出ていたから購入したという訳。聴いて驚いた。

 結局、聴きたいオトはコレだったのではないのか、と思った。1960年代後半から1970年代に多様化していったジャズの最高峰のひとつではなかろうか。ビートの多様化、電気楽器の導入、米国外からの奏者の活躍。そのような多元的なヴェクトルの方向が揃った瞬間を見事に捉えている。それが極東の1レコード会社の制作である、という驚き。同時期の渡辺貞男のアルバムにヴィトウスが参加していたことも縁になっているのだろう。

 1970年8月録音。2013年の今、リリースされていても違和感はないし、今の音としても受け入れるように思う。Infinite search(Nov. 1969)やWeather report(Feb./Mar. 1971)も素晴らしいのだけど、ヴィトウスを聴くうえでの雑味(Infinite searchのヘンダーソン、Weather reportのムーゾン)が気になる。音の純度が落ちているし、音の温度の統一感に欠けるのだ。

 このアルバムは小編成で、多重録音を効かせて、うまく創られたヴィトウスの小宇宙。コブハムのサポートが絶妙で、ヴィトウスの浮遊音に正確無比な脈動を与えている。A面のザヴィヌルもマイルスのIn a silent wayのような美しい電気ピアノを流している。B面ではマクラフリンのギターも音数は少なく、A面からの電気ピアノと同じ音の流れを維持しており、アルバムの統一感を損なっていない。ヴィトウス自身の電気ピアノも同じ。

 ミニマルなベースのうねりがやがて天涯の彼方へ飛翔し、アルコの一撃で天空に飛散するような音のカケラが煌めいている。Einsteinが申し述べる時間の相対性、時間が自座標の速度に依存するということ、を強く感じさせる不思議な世界。宇宙を飛翔するような音に包まれると、両面あわせて40分に満たない短いアルバムが更に短く、僅か数呼吸のうちに聴き終えてしまったような充足感と、過ぎ去った音の喪失感に包まれる。

 だから、もう何回聴いたのだろうか。今朝も聴いている。

 

 

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Miroslav Vitous: Purple (CBS Sony, 1970)
   A1. Purple
   A2. Mood     
Miroslav Vitous(b), Joe Zawinul(el-p), Billy Cobham(ds)
   B1. Water Lilie
Miroslav Vitous(b,el-p),  John McLaughlin (g), Billy Cobham(ds)
   B2.Dolores
Miroslav Vitous(b),  Billy Cobham(ds)
   B3. It Came From Knowhere
Miroslav Vitous(b,el-p), Billy Cobham(ds)