K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

新垣隆, 吉田隆一: N/Y (2015) Beyond modern ageに見たmodernな夢

 甘美、というコトバがすっと染みいるようなアルバム。甘さ、が何処からやってくるのだろう。記憶を遡行するときの、ゆっくりとした速度を感じさせる頬を撫でる風、春先に海の方から吹く風、のように温い。そして甘い匂い。

 この甘さは20世紀への追憶。modern ageと呼ばれた時代が、記憶の彼方に消え入る21世紀、そのBeyond modern ageに見たmodernな夢のような音楽だと思う。そして幾分、極東という地勢的な味わい、が加味されている。

 クラシッック/現代音楽系の奏者の作曲行為がインプロ風の旋律の隅々まで入っているような音の良さ、で、それが柔らかくジャズ風に届いていることが、作曲能力の高さ、をとても感じさせていて、とても良いアルバムだと思う。勿論、ジャズ的な面白み(improvisationの妙)では聴いていない。全体の音の良さ、むしろ現代音楽に近いような気持ちよさ。だから、曲を聴きながら20世紀を懐かしむようなノスタルジィが沸きおこり、そう甘さの源泉となっている。ジャズか否か、って命題の小ささ、を思い知る。improvisationが作曲行為の一つであるならば、作曲行為の良し悪しが問われるべきであって、記譜の有無、は些細なことなのだから。

 演奏は1曲目から期待とおり。カチッとしたピアノが正確に刻み、その響きも正確に操られ、淡い光景を映す。そこに案外温度の低いジャズ系のバリトンサックス(サーマンとは芸風が違うが)が墨のように線を入れていく。感じ。バリトンとかトロンボーンって、あのボワッとした感じが合わないので、あまり聴かない。吉田さんのバリトンは、そんな勝手な音のイメエジを飛ばすほど軽やかで、サーマンのような高音を強調することなく、ピアノを覆い尽くす瞬間すらある。

 新垣さんのピアノはクラシック・現代音楽の弾き手だけあって、とても上手くピアノを響かせていて、気持ち良い。よくできた曲が並んでいるので、オッという瞬間がソチコチに隠れている。ただ愉悦の頂上の手前で引き替えすような感覚があって、だからこそ、クラシック・現代音楽の最上級の弾き手が弾いたら凄い快感だろうな、って思った。2曲目がいいなあ、と思いつつ、そんなことも感じていた。

 ECMの現代音楽的な側面が好物なヒトには、とてもいいアルバムではないかと思う。武満徹の曲で締めるなんてね。プロデューサーは村井康司さん。

 今朝、High Resolution (96kHz, 24bit)でダウンロードできると知って、Ototoyで入手。音源の音質そのものには、あまり驚かなかった。最近のCDや最晩期のLPレコードの音の良さ、奏者がスピーカから近づくような、はあまり感じなかった。柔らかな音がそう感じさせたのかもしれないし、人工的な残響も加味されていない自然。だからECMよりは高めの温度感なので、逆に冷たいほうが気持ちよさそうな音源と微妙な不整合感がある。まあ最近のECMの画一的な音場に飽きた面もあるので、いいのだけど。

 あとOTOTOYのDL音源について。DLしたのがWAVファイル、というのが失敗。音源ファイルに奏者、トラック番号、ジャケット写真の情報なし。曲名のみ。こちらの知識不足の問題でWAVにはファイルにつけられないようだ。ZIPファイルのなかに、CDのジャケットや解説のjpegがない点は改善望む。

 以下のプロモーション・ヴィデオではpart3(アルバム2曲め、が好み)

 

 

 

 

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新垣隆, 吉田隆一: N/Y (2015, Apollo)
1. Vertigo(新垣隆、吉田隆一)
2. 野生の夢〜水見稜に〜(吉田隆一)
3. 秋刀魚(新垣隆
4. 皆勤の徒〜酉島伝法に〜(吉田隆一)
5. Spellbound(新垣隆、吉田隆一)
6. 怪獣のバラード(東海林修
7. Stage Fright(新垣隆、吉田隆一)
8. Embraceable You(ジョージ・ガーシュウィン
9. The Birds(新垣隆、吉田隆一)
10. Sophisticated Lady(デューク・エリントン
11. Topaz(新垣隆、吉田隆一)
12. 明日ハ晴レカナ、曇リカナ(武満徹
新垣隆(p), 吉田隆一(bs)