ボクが日本のジャズを熱心に聴いていたのは大学生の頃。随分、レコードも入手した。30年以上前のこと。
当時は街中にレコード屋が何軒もあって(大阪の中都市だけど)、そこで日本のジャズも結構売っていた。今からじゃ考えられない昭和の頃。気に入っていた奏者の一人が富樫雅彦だった。1980年代半ばからは、そのことを忘れたように、急速に関心の外に外れていったのだけど。東京近郊に住んでいるとき、増上寺を歩いていて、ふっと、彼のセッションがホールであるなあ、行ってみたいなあ、と思ったことが記憶に薄ら残っている。
ボクの意識のなかで再び浮上してきたのは、菊地雅章とのポエジーを聴いたときから。最近のこと。菊地さんも富樫さんも鬼籍に入ってしまった今、改めてその音を噛みしめていた。二人とも、存命の頃から遠くにある存在で、その距離感と相まり、音の儚さのようなものを強く感じるような気がする。この世のボクが現なのか、あの世の彼らがこの世で吹き込んだ音が現なのか、そのような感覚を覚えるほど、境界を漂う音。
このアルバムは昨日届いた。少しビールを呑んだ後聴いた。恐ろしく、素晴らしく、美しい。音の空間に静寂が満ちていて、そこから溢れるような音の雫が鋭く響く。夜半過ぎまで、聴くことを止めることはできなかった。まさにポエジーで紡がれた音世界、そこからピーコックが抜けた分、さらに地上へ下ろす脚のようなものがなく、意識の上部を漂う。
困ったなあ、嫌なアルバムを聴いてしまった。1980年代後半からの彼らの演奏はしっかり聴いていない、ということが気になってきた。
youtubeにあがっている本アルバムでの菊地さんのソロを貼り付ける。この音場そのままに静寂を音で叩き出す、富樫さん、は凄すぎる、と思った。21世紀の今、甘酸っぱく感じる20世紀の記憶の一コマ、になった。
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富樫雅彦,菊地雅章:Concerto (1991, 日本クラウン)
[Disk 1]
1. Two In Silence
2. Walking Step
3. Pause
4. Memories
5. Kid’s Nap
6. All The Things You Are (菊地ソロ)
7. Misterioso
[Disc 2]
1. Riding Love’s Echoes
2. Relighting
3. Mezame
4. Little Eyes
5. Passing Breeze
6. Utviklingssang
7. Unbalance
富樫雅彦 (per), 菊地雅章 (p)
録音:1991.4.16-17
音響ハウス