昨夜、タイソン・ショーリーのアルバムを打たれたように聴いていた。柔らかな音響空間の素晴らしさ、とともに、ボクのなかではポール・モチアンと菊地雅章の姿が遠くに見えていた。
特に最晩年の菊地雅章の録音、ECMから出たモノ、が作り出す、少ない、選ばれた音で点景のように空間を造り上げる、その残像をみるような感覚、をタイソン・ショーリーのアルバムに強く感じた。ECM固有の残響処理はECMの世界観、のようなものを統一的にする働き、はしているのだけど、菊地雅章の「残響含め操作したいと呻吟する演奏」に向くかというと、そうは思わない。だから、ECMの彼の遺作よりも、音空間の在り方が「菊地雅章的」じゃないかと夢想したのだ。
@kanazawa_jazz @yorosz 菊地雅章さんの晩年のトリオTPTのトーマス・モーガンとトッド・ニューフェルドというメンバーがそのままKOANのメンバーでした。演奏のアプローチは少し違いますが。菊地さんとタイショーン共演の録音が頓挫したのは惜しいですね。
— 蓮見令麻 - rema hasumi (@remahasumi) 2016年10月1日
蓮見さんのコメントをみて、更に彼らが指向した音への関心、それを継承する奏者達への関心が熱くなった。
少し長くなる。それなりにジャズ(音楽)を再び聴くようになったのは2008年頃から。そのときの疑問は「ジャズの現在」はどうなっているのか、そのcutting edgeはどこにあるのか。欧州の「現代ジャズ」も魅力的ではあるが、多くの場合cutting edgeを聴いている感じはない。米国はどうなっているのか、と。
だから、柳樂氏のJTNC本はその一つの答えなのだろうが、ボクのなかではグラスパをもともと聴いていたので、そんなinflectonを与える奏者か疑問を感じたものだ(今となっては、彼が与えた曲作り、リズム面でのinflectonは大きくて、大西順子のアルバムの新作を聴いてそう思った。新しいリズムのテイストが彼から発信されたのは確か、なんだろうな)。ある種のcutting edgeなんだろうけど、違う気もする。
菊地雅章やポール・モチアンが21世紀にやっていることは、「ECMと微妙に違う」cutting edgeを指向したものである、ことは確かだと思う。2000年過ぎにヴィレッジ・ヴァンガードでギター2本で新しい音を指向するモチアンのバンドを聴いたときには驚いた。そして、このアルバムで菊地雅章と織り上げていく音は、きっと彼らの新しい音、なのだと思う。テザード。ムーンでは感じなかった「空間的な音の構図」を感じるのだ。そして、既に鬼籍に去った彼らの代わりに、ニューヨークの若い奏者が造る音に、微かな軌跡を感じて、昂奮しているのだ。新しい音であるとともに、エヴァンスやモンクからの音をaccumulateした魅力に満ちたものだ。伏流水のような主流派、じゃないのか?
ほとんどが、このアルバムのことは書いていないのだけど、このアルバムのサブタイトル「Or The Paradox Of Continuity 」が、彼ら(モチアン、菊地)の音への問題意識ではないだろうか。2つのセッションが組まれている。レベッカ・マーチンが唄う伝統的ジャズの世界、そしてマーチンが抜け菊地が加わった「あの音」。異質な2人の音を、まったく同じ音でサポートする3人。まさにThe Paradox Of Continuityじゃないかな。モチアン、菊地の音が、未来にも過去にも連続的に延伸しようとした音であること、が、このアルバムで感じる。
ボクはクリス・ポッターの音がノスタルジックであることに強い違和感を持って聴きはじめたが、最後には、それがモチアンの意図だったかのかなあ、と思った。Continuityの蝶番である。
それにしても菊地雅章の「11. I Loves You Porgy」は美しい。ピアノの自然な残響音(ピアノから拾った音で、ホールの残響音的なものなく、キレが良い)。After Hoursでのソロに通じる間合い。そうやって、音を聴きながら意識を泳がせる時間、幸せだ。
On Broadway 4: Or the Paradox of Continuity
- アーティスト: Paul Motian,Chris Potter,Larry Grenadier,Rebecca Martin,Masabumi Kikuchi
- 出版社/メーカー: Winter & Winter
- 発売日: 2006/08/08
- メディア: CD
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Paul Motian Trio 2000 + One – On Broadway Vol.4 Or The Paradox Of Continuity (2005, Winter & Winter)
1. The Last Dance (Jimmy Van Heusen, Sammy Cahn) 5:09
2. Tea For Two (Irving Caesar, Vincent Youmans) 4:04
3. In A Shanty In Old Shanty Town (Joseph Young, John Siras, Jack Little) 3:05
4. Never Let Me Go (Jay Livingston, Raymond Evans) 7:08
5. Never Let Me Go (Jay Livingston, Raymond Evans) 4:53
6. Folks Who Live On The Hill (Jerome Kern, Oscar Hammerstein II) 4:52
7. Everything Happens To Me (Matt Dennis, Thomas Adair) 3:54
8. Last Night When We Were Young (E.Y. Harburg, Harold Arlen) 8:02
9. Born To Be Blue (Melvin Torme, Robert Wells) 5:34
10. Brother Can You Spare A Dime (E.Y. Harburg, Jay Gorney) 2:42
11. I Loves You Porgy (George Gershwin, Ira Gershwin) 8:07
12. You're Getting To Be A Habit With Me (Al Dubin, Harry Warren) 3:49
13. How Long Has This Been Going On (George Gershwin, Ira Gershwin) 4:03
Paul Motian(ds), Chris Potter(sax), Masabumi Kikuchi (p on 1, 4, 5, 8, 11), Rebecca Martin (vo on 2, 3, 6, 7, 9, 10, 12, 13), Larry Grenadier(b)
Photography: Robert Lewis
Engineer [Recording, Mixing, Mastering]: Adrian Von Ripka
Record, Mix [Assistant] : Peter Doris
Executive Producer: Mariko Takahashi
Producer, Executive Producer: Stefan Winter