K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

(ECM2428) Gary Peacock: Now This (2014) 走馬燈、というコトバが

 12月に入った。今年の*枚、のような記事が見えはじめると、押し迫った感じに、やはり押しつぶされそうな気分になる。年末は苦手、なのだ。

 ボクの場合、あまり沢山の新譜を聴いていないので、今年の*枚、は書けないのだけど、メルドーのソロの圧倒的な迫力は、そんなレベルじゃないなあ、と思わせる。と同時に、今年聴いた新譜については殆どアップできていないことに気がついて、少々苦笑い。やはり、古いアルバムに眼を奪われていることが多いのだ。ECMについても、1970年代のアルバムの素晴らしさに気持ちはいくが、最近のものは色合いが似すぎて、なんとなくアレだなあ、なんて思うのだ。

 そんななかで、メルドーのアルバムの迫力とは対極にはあるのだけど、ピーコックのnow thisの素晴らしさ、には刮目した。彼が活躍した半世紀以上の時間が凝縮されたような、走馬燈、というコトバが浮かぶような作品、だと思う。

 ECM的な耽美的な音からFree improvisationに近い領域までの幅を行き交う骨太のベースを楽しむ。何も予備知識なしの流していたら、最後になって9曲目から10曲目、1960年代から1970年代を振り返ったその時間が醸し出す甘さ、にヤラれてしまった。

 9曲目、1970年代のtales of anotherの再演。キース・ジャレットのスタンダードと同じメンバーながら、ピーコックの硬質な美意識が行き渡った音空間。そのアルバムの冒頭の曲をもう一度。回想するようなゆったりとした時間の流れ。さらに10曲目、ラファロのGloria's Step。エヴァンス・トリオで弾いたこともあるピーコックによる、ラファロへのオマージュ。ベースの一音一音がラファロへの敬愛に溢れているようにきこえる。ラファロの音とピーコックの音の伏流水のような繋がり、が地表に湧き出たような演奏。ラファロとピーコックが、軽やかに流れる水のように重なり合う。そして鎮魂曲(レクイエム)、と題された曲で終わる。ラファロ、そして自らの過ぎ去った時間へのレクイエム、だろうか。

  このアルバムの素晴らしさは、ピーコックを支える二人の奏者、コープランドとバロンの控えめで、過剰に耽美的になり過ぎない、そして十分美しい演奏がよい。ピーコックの音を軸に、ささやかな美音が包み込む。このアルバムも、ボクのとっての今年の1枚、に違いない。

 ピーコックが何か大きな区切り、をつけたように聴こえてならない。何だろうか?

youtu.be

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[ECM2428] Gary Peacock: Now This (2014)
1. Gaia (Gary Peacock) 6:39
2. Shadows (Gary Peacock) 5:00
3. This (Gary Peacock) 5:42
4. And Now (Marc Copland) 4:31
5. Esprit De Muse (Joey Baron) 6:13
6. Moor (Gary Peacock) 5:13
7. Noh Blues (Marc Copland) 5:45
8. Christa (Gary Peacock) 4:39
9. Vignette (Gary Peacock) 4:54
10. Gloria's Step (Scott LaFaro) 3:56
11. Requiem (Gary Peacock) 4:47
Gary Peacock(p), Marc Copland(p), Joey Baron(ds)
Design: Sascha Kleis
Engineer: Jan Erik Kongshaug
Photograph: Eliott Peacock
Producer : Manfred Eicher
Recorded July 2014
Rainbow Studio, Oslo
Released:15 May 2015