窓が大きな音で唸っていた、日の出前。強い風の音が聞こえる。崖っぷちの集団住宅なので、風が強い。
ひょいと外を覗くと、薄く雪が積もっていた。明るい。昨夜、雪の都内の映像を不思議な気持ちで眺めていた。こちらは積もっていない、のに。
昨夜の珈琲を温めて、音響装置に電気を入れる。ゆっくりと真空管のヒーターが灯を点す。30年以上前のJBLのスピーカーから淡い雑音とも云えない、気、のようなものが流れ出す。久しぶりに、このアルバムを取り出し、ターン・テーブルに載せる。アームの向こうの雪景色に眼をやりながら、レバーを倒す。針が盤面に落ちる衝撃音と一緒に腰掛ける。冬のプロトコル。
擦れがちなフルートの音と緩くスイングするベースの音。この瞬間がとても好きだ。フルートの音以上に、フルートの音が止まったとき刻み続けるベースの音が好きだ。ドルフィーの存在感だけを感じる、ような。
レコードを裏返し、B面に針を載せる。バス・クラリネットのソロ。引きつったような音の連鎖が、背後に潜む息を呑む観客のなかにボクを叩き込む。彼らが作る沈黙のひとつになる。
意識がどこか遠くにいき、レコードなどどうでも良くなる。レコード盤の端に針が当たる鈍い音で、そんな時間はお仕舞いになる。珈琲はもう冷たくなっていた。
1960年代のはじめ、ということに驚く。ハード・バップと隣り合わせの時間に、なんでこんなに静寂さを感じさせる激しいソロを吹くことができたのだろうか。
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Eric Dolphy: In Europe, Vol. 1 (1961, Prestige)
A1. Hi Fly
Eric Dolphy(fl), Chuck Israels (b)
A2. Glad To Be Unhappy
Eric Dolphy(fl), Erik Moseholm (b), Jorn Elniff (ds)
Bent Axen
B1. God Bless The Child
Eric Dolphy(b-cl)
B2. Oleo
Design: Don Schlitten
Liner Notes : Robert Levin
Photograph: Herb Snitzer
Released: 1964
Recorded in Copenhagen, September 8, 1961.
安価なPrestigeのsecond press。vol. 1の原盤はデンマークのDebut。だからfirst pressでも原盤じゃない。そして、このアルバムにはRVGの刻印がない。