まず最初に云わなければいけないことは、録音の良さ。高柳のギターの音がリアルに切れ味良く収録されている。TBMの魅力のひとつに録音の良さがある。このアルバムはスタジオライヴで、観客と奏者の間の空気、そして高柳のギターが放つ、弦が切り裂く空間、のようなものが見事に捉えられている。レコードではそうなのだけど、CDではどうだろうか。
最初、穏やかなクラリネットの音とともに、リズムが刻まれていく。次第に、刻まれるリズムから微妙な変調、のような気が放たれる。只事ではないこと、がはじまる予告のような気配。高柳のカチっとした音がわずかに揺らぐ瞬間に
そのあと段階的にFree Formの演奏に移行していくのだけど、音楽の様式云々よりも、如何なる様式であっても、高柳のギターの躍動、音を出して押し出されたり音を出さずに引き込まれたりする、が強い主張を行っている。
ボクは音を溢れさせるときよりも、ずっと少ない音で空間に浮遊していくような瞬間に、彼の魅力を感じる。だからB面のフリーフォーム組曲(3部構成)の最後の曲が、全員での集団即興なのだけど、これは楽しむことができなかった。それ以外は、彼のギターをいろいろな角度から楽しむことができるアルバムだと思う。
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高柳昌行 New direction for the arts: Free form suite (1972, TBM)
A1. The Blues (M.Takayanagi)
A2. You don't what love is (D.Raye, G.DePaul)
A3. Sun in the east (M.Takayanagi)
B. Free form suite *1
高柳昌行(g) 森剣治(cl, fl, ss, as) 山崎弘(ds, perc) ジョー水城(ds, perc) 佐藤敏夫(time conductor)
producer: 藤井武
engineer: 神成芳彦
1972年5月19日東京アオイ・スタジオでの実況録音
*1:M.Takayanagi