この2年余り、随分とLPレコード、とくに古いモダン・ジャズ最盛期の盤に熱中したものだ。当時の録音盤の質の高さに魅了された。あのジャズの黄金時代の空気が、ほんの少しだけスピーカから漏れだすから。この不思議な「音のオウラ」のようなものを知ってしまうと、暫し狂ってしまう。だから30年くらい前に一通り揃えた「名盤」のいくばくかを、古い盤で買い直した。
今はECM。ボクのジャズ好きはECM起点。だから30年前に買い逃した盤を今頃手にしている。針を落とした瞬間に伝わる清澄な空気感、に浸る時間が愛おしく、毎日、馬鹿みたいに繰り返し聴いている。
そんなこともあって、この1年半くらい、あまりジャズの新譜は聴いていない。気になるアルバムは少しだけは手にしているのだけど、数は限られている。おまけに、ヴォーカルはあまり聴かないので、最近、このアルバムを買った。何故、ヴォーカルをあまり聴かないかというと、「過剰な情感」とか「メッセージ性」がニガテだから(コトバが分かる日本語のヴォーカルアルバムは特にそうで、聴き出したのは最近。浅川マキなんかはメッセージ性皆無、なのがいい)。例外的に、LHRとかマンハッタントランスファーのヴォーカリーズが好きなのは、そんな理由からだ。
前置きが長くなったけど、このアルバムを手にしたのは、ハンコックのバタフライが入っているから。笠井紀美子のアルバムのバタフライも大好きだし。youtubeで別のライヴ音源(下に貼っとく)を聴いて、漂うグルーヴ感、にすっかり魅了された。
声とバンドの一体感が素晴らしく、決して唄伴がついている、という感じではない。唄が主でも、楽器が主でもない。全てがフラットな存在感を主張し、かつ綺麗に溶けている。何だ、この気持ちよさは。何よりも、メンバー相互のinterplay(のようなもの)があって、それが様々なグルーヴに変化しながら、色彩豊かな音になっている。ビートからビートにつないて行くときの競り上がるようなドライヴ感が素晴らしい。またライヴだけあって、個別奏者のソロもしっかりしていて、体の根っこが静かに揺らぐような持続性のある快感が走る。Jujuから次曲の継ぎ目の素晴らしさ、ときたら。
聴いていて、あれGlasperのBlack radioみたいだな、と思ったら前作のproduceがGlasper。なるほど、曲の構成は素晴らしい。彼のアルバムを聴いて思うのは、音のorganizerとしての素晴らしさと、その素晴らしさと対照的にやや寂しいピアノ・ソロ。Black radioは好きなアルバムなのだけど、ジャズとしてコクが足りない感じがある。このあいだGlasperのJava Jass Festivalの中継をみると、Black Radioよりも「持続し変化するグルーヴ感」の魅力を強く感じた。ただヴォーカルが、自前でヴォコーダーだったので、ちょっとね。そんな意味で、このアルバムはBlack Radio以上に、好みに合う、ジャズ的な切り口において、なのだ。本当に良かった。
ドラムの二人も甲乙つけ難し。メルドーともやっていた、ジュリアナが気になって仕方ない。コーエンのアルバムを聴かなきゃ。それにTaylor Eigstiも魅力的なので、アルバムを注文してしまった。勿論、パーラトの前作もね。
これが21世紀のジャズって声高な主張は何となくピンとこないのだけど、まあ、こんな音楽が出てくる2010年代って悪くないなあ、よ思ったのも事実なのだ。
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Gretchen Parlato: Live in NYC (2013, Obliqsound)
CD:
1. butterfly *
2. all that i can say **
3. alo alo *
4. within me *
5. holding back the years *
6. juju *
7. weak **
8. on the other side **
9. better than *
DVD:
1. weak **
2. butterfly *
3. alo alo *
4. better than **
Gretchen Parlato(vo)
* Taylor Eigsti(p), Alan Hampton(b), Mark Guiliana(ds)
** Taylor Eigsti(b), Burniss Earl Travis II(b), Kendrick Scott(ds)