K’s Jazz Days

K’s Jazz Days

ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

Mari Boine:欧州北方のエスニックを聴く


 いつだったか、BBCのRadio 3により随分とジャズのライヴがストリーミングで流れていた。エア・チェックならぬネット・チェック(と云うのか?)でストリームを録音して保存した。そのなかでも、London Jazz fstivalの音源は特に欧州周縁のエスニック音楽とジャズとの境界の音が多く、面白かった。モロッコあたりとか。そのなかで、とりわけ印象的だったのはノルウェイの北方・ラップランドの民「サーメ人」の唄い手であるマリ・ボイネ。人種的にはウラル語族で、マジャール人ハンガリー)やフィンランド人と同じアジア系。容貌をみると、マジャールフィンランドのように欧化しているけど。

 約90分の録音は本当に面白くて、なかなか聴かせるもの。ブルガリアと同じくアジアの草原の薫りがするような、コブシの効いた強い、ややエキセントリックなオトが続く。容貌や文化からは消え去ったステップ地帯の匂いがするのだ(ブルガリアはスラヴ系とcreditさえるが、その起源はアジア系のブルガル族。完全にスラヴに同化して、言葉すら失ったけど。唄はまだアジアの薫りを残す)。

 そのMari Boineの音楽の面白いところは、ノルウエィのジャズ系奏者との交流が強いらしいこと。ノルウェイの音楽で印象的なのは、かつてのテリエ・リピダル(g)の異常に冷たくブロウするロック的なギターや、近年のニルス・ペッター・モルヴェル(tp)のトランス音楽的な打ち込みなど、ジャズそのものが周縁を指向するときの運動力が強いこと。そのようなアナーキーな音空間にマリ・ボイネはすっぽりとはまっている。うっとりとするくらい、エキゾティシズムの淵に溺れそうになる。また、ビヨークとオーヴァーラップしている感もあり、北方の音楽文化の面白さを感じる。

 ここまで書いたのだけど、実はアルバムは持っていない。録音した音源だけ。当時はCDを見かけなかった。さて、今夜、彼女のことを思い出した。今はネット通販の時代じゃないか。少し悩ましい気持ちになっている夜半前なのだ。