K’s Jazz Days

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ジャズを中心とした音楽と本の備忘録

島尾ミホ:海辺の生と死 (1974) 先の大戦前の南島の生活

海辺の生と死 (中公文庫)

海辺の生と死 (中公文庫)

 先の大戦前の南島の生活が、瑞々しくというより、艶めかしく記述されている。語りの強度があり、圧倒される。何だろう、この力は。島尾敏雄の文学(特に夢日記)のことは、川崎長太郎とともに、つげ義春の日記のなかで再三述べられていた。そんなこともあって、読もうと思っていたのだが、死の棘が怖すぎて、完読できていない。この話の主役の一人なのだから、只事ならぬ力、はあるのだろうが。

死の棘 (新潮文庫)

死の棘 (新潮文庫)

 最近になって 、自伝が評判になったので、まずは島尾ミホから読もうかと、昔から持っていて、読んでいなかったこの本をハワイからの帰途、読んだ。

狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ

狂うひと ──「死の棘」の妻・島尾ミホ

  もう100年近く前、大正末から昭和初期の、奄美大島近くの加計呂麻島での少女の暮らしが色彩豊かに語られる。少女の眼を通した失われた時代の空気が、島尾ミホの口寄せにより細密画のように書き込まれ、強い陰翳を放っている。

 何となく台湾からマレーに連なるオーストロネシア的世界、を意識して読んだのだけど(島尾のヤポネシア論議は未読。読んでみたいと思う)、むしろ古代の日本に連なるような太古の息吹を感じた。それは奄美方言での記述が日本語の基層のような響きを持つから、なのかと思った。文庫本の解説で、吉本隆明万葉集を取り上げているのを読んで、そうだよなと思った。

 海は交易路でもあり、また支配側の力が及びがたいアジールのような側面もある。そんな自由な場所に住む人々、またそこを行き交う旅芸人の様子が、この本のなかで強い命を与えられ、未だに息づいているのである。